2014年12月3日水曜日

<文献検索から>(12)菌根菌有無による培養根の近赤外と赤外域の分光学的な特性


(題名:Mid-Infrared and Near-Infrared Spectral Properties of Mycorrhizal and Non-mycorrhizal Root Cultures)
著者:F. J. Calderon, V. Acosta-Martinez, D. D. Douds Jr., J. B. Reeves III, and M. F. Vigil
出典:Applied Spectroscopy, Vol.63, No5: 494-500 (2009) 
【用語】
アーバスキュラー菌根菌……菌根のうち大多数の陸上植物の根にみられるもの。菌根(きんこん)は、菌類が植物の根に侵入して形成する特有の構造を持った共生体。菌根を作る菌類を菌根菌という。日本の主要経済樹種であるスギやヒノキはアーバスキュラー菌根性で、アーバスキュラー菌根の機能としては、リン等の吸収促進、耐病性の向上、水分吸収の促進の3つが挙げられる。このため、アーバスキュラー菌根が形成されると作物は乾燥に強くなり、肥料分の乏しい地でも効率よく養分を吸収してよく育つようになる。

【抄録】アーバスキュラー菌(AM)は多くの農産物と共生関係にあり、しばしば土壌の改質と生産量を増やす効果がある。菌根菌は宿主から炭水化物を得て脂質として蓄える。これらの菌の脂質には通常には無い脂肪酸があり、菌根菌のマーカーとして使用できる。従来菌根菌の検出は、顕微鏡の観察と形態学的な解釈によって行われていた。脂肪酸分析法として脂肪酸メチルエステル分析があるが破壊的サンプリングで湿式化学の手順とガスクロマトグラフィが必要になる。NIR(近赤外)とMIR(中赤外)の拡散反射分光法は穀物、飼料、土壌のような農業物質の迅速で非破壊でできる分析法として確立している。
菌根菌の定着を調べるマーカーを見つけるために、菌根菌がある物(M)と無い物(NM)のニンジンの根の分光学的特性をフーリエ変換型の近赤外と赤外分光器を使用して求めた。菌根菌の感染を確認し脂肪酸マーカーの存在をし食べるために、根サンプルの脂肪酸の構成が調べられた。根の他に標準脂肪酸、純粋培養した腐生真菌、キチンが、サンプルのスペクトルバンドを同定するために調べられた。MNMサンプルのスペクトル的な差を調べるために主成分分析(PCA)が使用された。近赤外スペクトルでは、前処理を行わず良い分離結果が得られたが、赤外領域ではSNV(Standard Normal Variate)Detrendingが使用された。PCALoadingは、菌根菌有りのサンプル(M)は、400,1100,1170,1690,2928,5032cm-1付近の吸収によって特徴づけられていることを示し、菌根菌無しのサンプル(M)1734,3500,4000,4389cm-1付近に特徴のあることが分かった。結論としてアーバスキュラー菌有無はNIR MIRを使用して判別可能で、他の方法に比べ迅速で便利である。

2014年11月6日木曜日

<スペクトルあれこれ>(8)スペクトルの標準物質

スペクトルを測定する際に、分光器が健全な状態にあるか判断するために標準のサンプルを使用してチェック(校正)できると都合が良い。赤外分光、近赤外分光、ラマン分光では、それぞれ校正用の標準物質と校正に都合の良い波数が決められている。
 この標準物質と波長については、JIS, NIST (National Institute of Standards and Technology), ASTM (ASTM International,旧名:American Society for Testing and Materials)等に記載されている。NISTに準拠する標準サンプルとその証明書は幾つかの会社から販売され、資料も豊富なのでここでは、NISTの規格を中心に説明する。表8AR-1に各規格のNoと代表的な標準物質を示す。
                               


それぞれの規格では、標準サンプルとそのスペクトルピークの波数が決められている。赤外域のポリスチレンサンプルのピークは子細に検討(例:NIST SRM1921)され、そのピーク位置は理科年表にも掲載されている。ポリスチレンサンプルは、代表的な赤外域の標準サンプル(近赤外、ラマンでは正式な標準サンプルと認められていない)だが、しばしば近赤外あるいはラマンの内部機器標準として使用され、代表的なピーク位置(波数)が論文等で紹介されている。赤外と近赤外域で高分解能分光器の標準サンプルとして水蒸気がしばしば用いられる。
 近赤外域では、反射測定が良く使用されることもあり、NISTでは希土類酸化物を使用した標準サンプルのピークが透過(SRM2035)と反射(SRM2036)に記載されている。近赤外域の水蒸気スペクトルでは7300cm-1付近が、高分解能FT-NIRの標準ピークとして使用されているようだ。
 ラマン分光用のNISTの標準物質は、ブロードなピークを持ち多項近似式の係数が定められている。NISTの標準では励起波長により標準物質が異なり785nm励起ではCr2O3がドープされたガラスが使用されているが、一般的な液体サンプルとしてはシクロヘキサンが使用されている。以下に標準物質のスペクトルと代表的なピーク波数を示す。