2014年5月4日日曜日

<文献探索から> (9) ライ麦中のデンプンの酵素加水分解のフーリエ変換型近赤外分光法によるインラインモニター:第1世代のバイオエタノール製造のための含水試料


(題名:Fourier transform-near infrared spectroscopy in-line monitoring of the enzymatic hydrolysis of starch in rye: water mashes for first-generation bioethanol production )
 著者:E. Tamburini, T. Bernard, and G. Castaldelli
 出典:Journal of Near Infrared Spectroscopy19,181-190 (2011)


【抄録】バイオ燃料のためのエタノール生産のための研究開発が盛んに行われている。EUにおいてもエタノール燃料は広く使用されている。世界的には砂糖きび、トウモロコシからバイオエタノールが製造されているがEU圏内では砂糖きび、トウモロコシはあまり育たない。ライ麦は小麦よりデンプン量が23%低いが生産コストは非常に安く、天候が不順でも育つ丈夫な作物である。しかしライ麦のバイオ燃料としての検討はあまりされていない。バイオエタノールは幾つかのデンプンを含む原材料(麦、トウモロコシ、大麦、ライ麦)から生成される。デンプンはグルコースへの加水分解の後で発酵によってエタノールへと変化する。デンプンの加水分解は異なる酵素によるいくつかのプロセスよりなる。加水分解は、最終製品の物理/化学的な性質を決定するクリティカルなプロセスである。
 デンプン穀物のバイオエタノール製造においてデンプンの加水分解は3つのステップと考えられる。第1ステップは酵素Viscozymeによる懸濁液化でデンプン粉の粘度を減少させる。第2ステップでは酵素Liquozymeを用い水溶性のデキストリンにする。第3ステップではSpirizyme Fuelを用いてグルコースを糖化するこの研究の目的はライ麦デンプンの酵素分解の3ステップを拡散反射型のプローブを使用してFT-NIRでモニター出来ないか検討することにある。   第1ステップをモニターするためBrix値用検量線、第2ステップでは Maltotriose用検量線、第3ステップでは Maltose用とGlucose用検量線を作成し、第1ステップから第3ステップまで通した実験を行い、そのスペクトルを測定し作成した検量線にあてはめ評価を行った。結果を下表に示す。                  
上記結果から、糖化プロセスの反射型プローブを用いた近赤外分光分析法のインラインモニタリングは可能である。
専門用語解説:
ViscozymeLiquozymeSpirizyme Fuel……何れも市販酵素の名前
Brix値……一般的には糖度として用いられる物理量、ここでは固形成分濃度として使用。Maltotriose……グルコースが3つ結合した糖の1種、デンプンの加水分解で生成。
Maltose……麦芽糖
Glucose……ブドウ糖
SEP……Standard Error of Prediction 
【読後感】デンプンから発酵させてエタノールを得る時、最初の段階でデンプンを糖化させる必要がある。糖から発酵させるのは酵母を使えば良いが、その前の糖化の過程を3ステップに分けて近赤外分光分析計でモニターしようとしている。拡散反射型のプローブを使いドロドロの懸濁液からスペクトルを測定している。良く測定できるなと感心。日本酒の製造過程では、このようなステップを踏まず、麹と酵母を使用して米と水から糖化と発酵がほぼ同時(?)に起こるようだ。