著者:R. C. Sales, F. Rosa, P. N. Sampaio, L. P. Fonseca, L. P. Lopes, C. R. C. Calado
出典:Applied Spectroscopy Volume 69,No6, 2015, P760-770
【抄録】革新的で効果的なバイオ医薬品は製薬業界の最先端である。Top20の医薬品の内8種類はバイオ医薬品であり2012年度の研究開発費の40%以上がバイオ関連で165billion$以上の開発費が使われている。バイオ医薬品はくみかえDNA 、制御された遺伝子発現法、又はその組み合わせた方法を使って導出されたたんぱく質又は核酸である。
しかしバイオ医薬品の開発には、これらの分子が生きた細胞によって合成されるため生成能力に関係する固有の変動性が存在し、さらに製造環境に対し敏感に反応する等いくつかの現実的な問題がある。正しいバイオプロセスの理解は、最適でより経済的な製造プロセスへプロセス開発をスピードアップし、さらに先進的なプロセス制御を用いることにより変動の原因決定とプロセス変動に対する最終的な対策が可能になるかもしれない。バイオ医薬品とバイオプロセス制御の開発スピードアップの必要条件は適当なモニター技術の開発にある。しかしOn-lineモニターとして利用できるのは温度、pH、DOC、スターラー回転スピード、ガス、流体の流量等ごくわずかなものだけだ。バイオプロセスの残った重要なパラメーター(すなわちバイオマス(生物量)、栄養源、抑制物質、製造物)は通常バイオリアクターから取り出されoff-lineで酵素分析、HPLC、免疫学的測定等で解析される。これらのOff-line解析は高価格、汚染のリスク、サンプリングが必要で解析に時間がかかる等いくつかの課題がある。開発をスピードアップして、これらの厳しい製造工程を制御するために高い効率とOn-lineモニタリング技術を開発することが急務になる。MIR/NIR分析は、On-line分析に使用できる候補のひとつである。
この文献ではプラスミドを製造用の組み替え大腸菌培養におけるモニタリングを対象としてMIRとNIRについて比較を行う。ロバストなPLS(Partial least square 部分最小二乗法)検量線を作成するために、栄養源としてグリセリン、グルコース、グルコースとグリセリン混合物の3種類を使用し培養の種類(回分培養と流加培養)をかえて培養を行い、at-lineのMIRとin-situのNIRで測定を行った。グリセリンを栄養源とした培養では、グルコースを使用した培養より2倍のプラズミドを製造できた。酢酸塩の生成を最小にすることで、バイオマスと製造物が増加する。グリセリンとグルコースの混合物を使用した培養が、他の二つに比較して最もプラスミドの製造効率(4.4mg/L/H)が高く、高濃度(42mg/L)であった。
NIR分光分析(波数域: 12500~5400cm-1,分解能8cm-1)では、パス長2mmの近赤外透過反射プローブを培養液に挿入して、光ファイバを使用して測定を行った。
MIR分光分析(波数域: 4000~500cm-1,分解能4cm-1)では、培養液から遠心分離された細胞ペレットは、再懸濁されて赤外透過測定用のZnSeマイクロタイタープレートにおかれ真空脱水された後、透過測定された。MIRでも培養液に挿入できるATR(Attenuated Total Reflection)プローブを使用することが可能であるが、使用可能なファイバの長さが短い等のNIRに比較して使用しにくいという欠点がある。
NIRとMIRのスペクトルから作成したPLSの検量線による予測結果を比べると、ほぼ同じような傾向であったが、バイオマスについては、NIRの予測誤差はRMSE(Root Mean Square Error)でMIRの予測誤差の43%、グリセリンではMIR予測誤差の50%となった。これはNIRとMIRの違いではなく、NIRでは培養液を直接測定しているのに対し、MIRでは遠心分離して再懸濁などの前処理をしているためかもしれない。培養液に挿入できるATRプローブを使った赤外の測定例では近赤外より誤差が小さいという報告がある。バイオプロセス制御(特に培養槽が大きい場合)の場合、On-lineでコンタミの心配なく測定が可能なので高圧蒸気洗浄で滅菌した近赤外の透過反射プローブが使用されるべきだ。複数の培養から数百のサンプルをとり、マイクロタイタープレート等を使用して自動ですばやく測るにはMIRが向いている。