題名:Improved Accuracy for Raman Spectroscopic Determination of
Polyethylene Property by Optimization of Measurement Temperature and
Elucidation of Its Origin by Multiple Perturbation Two-dimensional Correlation
Spectroscopy
著者:S. C. Park, H. Shinzawa, J. Qian, H. Chung, Y. Ozaki
and M. A. Arnold出典:Analyst 136, 3121-3129 (2011)
【抄録】
ラマンスペクトルはポリエチレン(PE)サンプルの密度を精度よく測定することが出来るという報告がある。しかしその報告は室温測定の結果であり、ポリマーのスペクトルは温度変化に敏感である。このため室温以外の温度でサンプルを測定することにより、ラマン測定を使用したPEの密度測定の精度を改善できる可能性がある。精度改善が出来る最適な温度の存在を調べるため、ホモPEポリマー、共重合PE(co-polymer;1-ブテン、1-オクテン)を含む25種類の異なる密度を持つPEペレットのラマンスペクトルが8種の異なる温度(30~100℃、10℃毎に)で測定された。それぞれの温度で測定したスペクトルデータセットからPLC(Partial Least Square)を利用して検量線モデルが作成された。基準PE密度値は、密度勾配管を使用し23℃で測定された。異なる密度を持つPEペレットのラマンスペクトルは、温度変化によって1504~1054cm-1の領域でピーク強度、波数位置、ピーク幅の項目で異なった振る舞いをすることがわかった。
30~100℃、10℃毎に測定したスペクトルを使用し、PLSを使用してそれぞれの温度で密度の検量線を作成し、その精度を比較したところ70℃で測定したスペクトルを使用した検量線の精度が一番良かった。(評価指標:Men Standard Error of Calibration(MSEC)とMean Standard Error of Prediction (MSEP)) 70℃がなぜ一番良い結果となったのかを調べるために、PLSのLoadingを調べた。全体的に見て、Factor2のLoadingは温度変化による構造変化が60~70℃あたりで始まっていることを示していると思える。
多重摂動2次元相関法(MP2D)を使用して、測定温度の異なる8種類のスペクトルデータを解析した。1180-1100 cm-1では同時に強度が低くなるバンドシフトを示すパターンが観測され、結晶構造と非晶質構造の変換を示している。1500~1300 cm-1領域のMP2Dの強度と形はホモPEと共重合PEとではまったく異なる。これらの特徴は共重合PE間では良く似ている。この差はホモPEのCH2構造の熱的振る舞いが、共重合PEとは異なることを示している。2つの共重合PEのCH2構造は溶融温度(Tm)よりかなり下でもホモPEのCH2に比べて熱的刺激に敏感である。共重合PEのような半結晶性ポリマーは液体のような非晶質(アモルファス)基質(マトリックス)の中に折りたたまれたラメラ結晶で構成された複雑な超分子構造を持つことが知られている。この構造のためTm以下でも、共重合PEではpre-melting(前溶融)として知られる微小結晶の部分溶融が起こることになる。1500~1300 cm-1領域におけるMP2Dの強度と形の違いはpre-meltingによると考えられ,MP2Dから得られる結果は示差走査熱量測定(DSC)の結果と一致している。
MP2D解析はTmより低い温度でのPre-meltingを説明できたが、70℃で精度が改善された理由については説明できない。同時サンプル-サンプル相関強度はサンプル間の特徴が似通っているときのみ強くなり、サンプル間の類似度を効率よく表すことが出来る。そのためMP-Sample-Sample2次元相関(MPSS2D)を使用した。ホモ、1-ブテン、1-オクテンの30-100℃データについてMPSS2Dを使用した結果は、3種のポリマーとも同じような傾向を示し70℃で相関強度は最低になった。これはサンプルが70℃で構造的に最も異なっていることを示し、微小結晶領域における部分的な溶融(pre-melting)の発生温度に一致している。このポリマーの構造変化によりサンプル間のスペクトルの差が大きくなり定量分析の性能が改善されたと考える。MPSS2Dを使用して70℃で測定されたサンプルのラマンスペクトルで作成された密度の検量線が最も良い結果を出す理由について説明することが出来た。