2017年11月30日木曜日

<文献検索から>(26) 医薬品農業サンプルの定量分析へのMCR-ALSの応用


題名:Application of multivariate curve resolution alternating least squares (MCR-ALS) to the quantitative analysis of pharmaceutical and agricultural samples

著者:T. Azzouz, R. Tauler
出典:Talanta 74 (2008) 1201–1210

この研究では、2つのサンプルの定量分析が検討されている。医薬品中の混合成分のUV-vis分光による分析と近赤外分光(NIR)による飼料サンプルの分析であるUV-vis吸収測定は、迅速で安価で医薬品製剤の分析に適しているが、異なる成分の吸収帯が大きく重なっているために一般的な適用に限界がある。医薬製剤は、通常、医薬原薬成分と、同じスペクトル領域で吸収する種々の賦形剤との混合物である。重なり合ったスペクトルの波形分解を基礎にした多変量解析法の開発は、迅速なスペクトル分解と定量化を可能にする。一般的に、多成分試料中の目的の分析対象物すべてについて完全に選択的な分析信号を得ることは非常に困難である。そのため、クロマトグラフィーまたは他の分離分析法による物理的分離、或いは多変量解析を用いた数学的分解法は、特に複雑な天然試料の分析における定量分析に有用である。部分最小二乗法(PLSRのような多変量解析法とは、別に種々のケモメトリック法が存在する。この研究で提案されているMCR-ALSは、分光学的手段を用いて複雑な混合物の定量分析が可能である。

多変量波形分解 交互最小二乗法(MCR-ALS法)
第1Step:予測した成分数の初期濃度ベクトルを作成する。
    (初期条件として、構成成分の濃度情報又は純粋スペクトル情報を必要とする)
2 Step:測定データのマトリックスと、上記濃度の疑似逆行列から予測スペクトル
         マトリックスを得る。
3 Step:予測スペクトルマトリックスと測定データマトリックスより
         疑似成分予測ベクトルを得る。
    あらかじめ設定した拘束条件を満たすまで、順次表記ステップを繰り返す。

拘束条件
   ①非負濃度拘束……成分濃度がマイナスになることはない。
   ②非負スペクトル拘束……スペクトルの吸光度がマイナスになることはない。
   ③相関拘束……ある特定した成分の予測濃度が、初期の濃度と一定の相関がある
                という仮定(この論文で提案された拘束)

部分最小二乗回帰(PLSR
  この回帰方法は、分光データ(データ行列)および濃度ータ(濃度ベクトル)の両方
  に含まれる情報を効率的に使用して、サンプル中の分析対象物濃度の予測モデルを構築
  する。PLSRアルゴリズムは、データ行列と濃度ベクトルとの共分散を最大にする連続す
  る直行因子を選択する。

【実験結果】
<医薬品中の混合成分>
  市販薬MicrogynonNeogynonaのエチニルエストラジオール卵胞ホルモン、前立腺
  癌薬)とレボノルゲストレルステロイド(避妊薬)UVスペクトルをMCR-ALSで解
 析し濃度値をPLSRの結果と比較した。使用測定波長は250-300nmが最適であった。得ら
 れた誤差は、 PLSRが少し良い値を示したが、MCR-ALSPLSRでほぼ同じオーダーで
 あった。同じ成分が入っている褐色の市販薬Triagynonについても定量分析を行い同様の
 結果を得た。MCR-ALSによって得られたスペクトルは、エチニルエストラジオールおよ
 びレボノルゲストレルの純粋な標準のスペクトルと一致する。対照的に、PLS回帰は、
 混合物中に存在する成分の濃度を予測するが混合物の成分の純粋なスペクトルの推定は
 できない。MCR-ALSの明らかな利点は、成分の純粋なスペクトルを含めて定性的情報を
 得られるという点にある。
NIRで測定したライグラス(Ray-Grass:細麦)の湿度とタンパク質含量の定量
  ライグラス中の水分とタンパク質の定性/定量的情報を得るためにMCR-ALSPLSRを適
  用し結果を比較した。水分測定に関しては、PLSRとほぼ同等(PLSRの方が若干良い)
  であったが、タンパク質については、PLSRは明らかにMCR-ALSより優れていた。MCR-
    ALSモデル比較してPLSR多数のコンポーネントFactor使うことが出来るため
  と考えられる。 MCR-ALSによって得られたスペクトルは、飼料中の湿度とタンパク質に
 関する文献で以前に報告されたNIRスペクトルによく似ていた。

【結論】
  未知の混合物および天然試料中の干渉のあるサンプルに新しい相関制約を適用する
  MCR-ALSの能力は、一般に、PLSRを用いて得られた結果と同等であった。
  MCR-ALS使用する主な利点は、測定対象成分と未知物質の差異についての
  スペクトル情報が得られることである。