2015年5月16日土曜日

<展示会見て歩記>:(11)第15回光・レーザー技術展


15回光・レーザー技術展 開催日:201548日~10日、参加日:410
会場:東京ビックサイト 
(高機能フィルム展、高機能プラスチック展、高機能金属展、ファインテックジャパンが併設)


【展示概要】
主な目的は光・レーザー技術展(Photonix2015)で分光器とその要素技術を見ることにあったが、高機能フィルム、高機能プラスチック、ファインテックジャパン(フラットパネル関連)等の方が参加人数が多いように感じた。

Photonix2015:光通信・レーザーが主な展示であるが、光計測・分析機器展も併設(Photonix2015の一コーナーといった位置付け)されていて、日本分光、東京インスツルメンツ他数社が展示を行っていた。分光器としては、やはり小型化、ポータブル化が主流であり、そのための技術要素が展示されていた。近赤外分光分析器、ラマン分光分析器ではその傾向が顕著だが、FTIRでも小型化に対応して従来あまりなかった小型MCT(水銀/カドニウム/テルル)素子等が展示されていた。小型FTIRでは従来熱型素子(TGS :トリグリシンサルファイド等)が主流だが、このような素子が出ることに小型でより高感度測定が可能になると思われる。要素技術としては、サーボモータで制御された高速スキャナー、テーパーファイバー等が新しい素子として目についた。その他にもロッドレンズを使用した光インテグレータ等分光分析機器に応用可能に思える要素技術が散見された。

高機能プラスチック展他:併設された他の展示会は、時間がなく駆け足で通り過ぎてしまったが、その中で注意を引いたのは高機能プラスチック展だった。液晶ポリマー、バイオポリマー(杜仲を原材料としているものもあった)、架橋点が移動するポリマー等、目新しい機能性ポリマーがあり化学構造を制御する高度な技術が各メーカにあると推測される。このようなポリマー開発/製造工程等に分光分析技術を使用してスペクトルを測定、解析することにより新しい知見が得られ、又製品の品質管理等に貢献できるのではと愚考した。

2015年5月7日木曜日

<スペクトルあれこれ>(10)赤外分光とラマン分光(赤外活性とラマン活性)について

赤外分光法は、測定対象の物質に赤外線を照射し、透過(あるいは反射)光を分光することでスペクトルを得て、対象物の特性を知る。一方ラマン分光法では、対象とする物質に光(励起光ν0)を照射し、散乱光の振動数と入射光の振動数の差に対して散乱光強度を測定することでラマンスペクトルを得る。(図10AR-1参照)赤外スペクトルと同様に物質の振動スペクトルが現れる。しかし赤外吸収は、分子振動に伴って双極子が変化する場合に生じ、ラマン散乱は分子の振動により分極率が変化する場合に観測される。各スペクトルピークの相対強度も両者で異なる。ラマンスペクトルでは観測される(ラマン活性)振動モード が、赤外スペクトルでは観測されない、又逆に赤外スペクトルでは観測される(赤外活性)振動モードが、ラマンスペクトルでは観測されない場合がある。その意味ではラマンスペクトルは赤外スペクトルと相補的である。スペクトルを実測すると不活性であるべき波数位置に弱いピークが観測されたりする場合がある。これは赤外/ラマンの活性/不活性が調和振動を基本に考えられて、実際の振動(非調和振動がある)と理論に差があるためと考えられる。




二酸化炭素(CO2)は単純な構造を持ち、両者の違いを説明するのによく用いられる。
10AR-1に振動モードと赤外/ラマンの活性/不活性を示す。表1に示すように対称伸縮振動ν1(1334cm-1)は赤外不活性で、非対称伸縮振動ν(2349cm-1)と変角振動ν(667 cm-1)は、赤外活性となる。

測定したCO2赤外スペクトル例を図10AR-2に示す。対称伸縮振動のバンドにピークは見られない。表10AR-1によればラマンスペクトルでは、対称伸縮バンドのみにピークがあることになる。測定例を図10AR-3に示す。CO2ラマンスペクトルは1334cm-1付近にあるはずだが、そこにピークはなく1285 cm-1,1388 cm-12本のピークが見られる。フェルミはν2の倍振動2ν2の波数がν1に近いので2つの振動状態間の共鳴状態ができるためであるとして説明(フェルミ共鳴)した。このようなフェルミ共鳴がおこるためには,2つの振動状態(上例ではν12ν2)の対称性が等しく,また振動のポテンシャルに非調和性がなければならない(ここでCO2のν2は、調和振動ではラマン不活性だが非調和があり、極僅かな振動があると考える )。同じような現象はCCl4,C6H6,CH3Clなどでも観測されている.
 
                

            
                 

倍音が基本音に対し相対的に無視できるほどの吸収強度を持っていると仮定すると、観測されるバンドの波数は下式によってフェルミ共鳴によって起こるシフトを修正することが出来る。

                 

ここでνは修正された波数、ν1、ν2は観測された波数、ρは二つのバンドの観測された散乱強度の比である。図10AR-3のスペクトルに10AR-1式をあてはめてみる(ρ=0.814) と1337±5.3 cm-1となりほぼ対称伸縮振動ν1に一致した。ラマン分光ではバックグランドに蛍光の影響が出るために、ベースラインを補正してスペクトルを得ることが一般的である。10AR-3もベースライン補正後のデータでありρの値は誤差を含む。
水(H2O)の振動モードも対称伸縮、非対称伸縮、変角の3種を持つが、何れも赤外、ラマン共に活性である。
<参考資料>
1)Introduction to Infrared and Raman Spectroscopy (Third Edition) by N. B. Colthup, L. H. Daly, and S. E. Wiberley , Academic Press Inc. (1990)
2)赤外・ラマン分光法、長谷川編 古川、高柳執筆 講談社サイエンティフィック (2009)
3)近赤外分光法 尾崎・河田編 学会出版センター(1995)