二酸化炭素(CO2)は単純な構造を持ち、両者の違いを説明するのによく用いられる。
表10AR-1に振動モードと赤外/ラマンの活性/不活性を示す。表1に示すように対称伸縮振動ν1(1334cm-1)は赤外不活性で、非対称伸縮振動ν3(2349cm-1)と変角振動ν2(667 cm-1)は、赤外活性となる。
測定したCO2赤外スペクトル例を図10AR-2に示す。対称伸縮振動のバンドにピークは見られない。表10AR-1によればラマンスペクトルでは、対称伸縮バンドのみにピークがあることになる。測定例を図10AR-3に示す。CO2ラマンスペクトルは1334cm-1付近にあるはずだが、そこにピークはなく1285 cm-1,1388 cm-1に2本のピークが見られる。フェルミはν2の倍振動2ν2の波数がν1に近いので2つの振動状態間の共鳴状態ができるためであるとして説明(フェルミ共鳴)した。このようなフェルミ共鳴がおこるためには,2つの振動状態(上例ではν1と2ν2)の対称性が等しく,また振動のポテンシャルに非調和性がなければならない(ここでCO2のν2は、調和振動ではラマン不活性だが非調和があり、極僅かな振動があると考える )。同じような現象はCCl4,C6H6,CH3Clなどでも観測されている.
倍音が基本音に対し相対的に無視できるほどの吸収強度を持っていると仮定すると、観測されるバンドの波数は下式によってフェルミ共鳴によって起こるシフトを修正することが出来る。
ここでνは修正された波数、ν1、ν2は観測された波数、ρは二つのバンドの観測された散乱強度の比である。図10AR-3のスペクトルに10AR-1式をあてはめてみる(ρ=0.814) と1337±5.3 cm-1となりほぼ対称伸縮振動ν1に一致した。ラマン分光ではバックグランドに蛍光の影響が出るために、ベースラインを補正してスペクトルを得ることが一般的である。図10AR-3もベースライン補正後のデータでありρの値は誤差を含む。
水(H2O)の振動モードも対称伸縮、非対称伸縮、変角の3種を持つが、何れも赤外、ラマン共に活性である。
<参考資料>
<参考資料>
1)Introduction to Infrared and Raman Spectroscopy (Third Edition) by N. B. Colthup, L. H. Daly, and S. E. Wiberley , Academic Press Inc. (1990)
2)赤外・ラマン分光法、長谷川編 古川、高柳執筆 講談社サイエンティフィック (2009)
3)近赤外分光法 尾崎・河田編 学会出版センター(1995)
3)近赤外分光法 尾崎・河田編 学会出版センター(1995)
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