学生時代からOn-line, Real Time計測(含む分析)携わってきて、40年を超える。学生時代には、Real Timeの相関・スペクトル(音)分析、サラリーマンの最後の約20年間は分光分析(主に近赤外領域)機器で スペクトルに関わってきた。長く関係したわりには、日々の仕事に追われ、スペクトルとその関連技術をしっかりと見直したことはないように思える。ここでは、<スペクトルあれこれ>、<展示会見て歩記>、<文献探索から>の3つの視点からスペクトルに関連する事象について思いつくままに述べてみたい。
2016年11月1日火曜日
<文献検索から>(22) 正しいツールの選択:赤外全反射吸収測定アクセサリーの分析性能の比較
題名:Selecting the Right Tool: Comparison of the Analytical Performance of Infrared Attenuated Total Reflection Accessories
著者:T. Schadle, B. Mizaikoff
出典:Applied Spectroscopy 70 (6), 2016, 1072-1079
<用語と解説>
ATR(Attenuated Total Reflection)…他の文献に使用されている赤外全反射吸収測定と訳した。
ATRに使用されている素子は、一般にIRE(Internal Reflectance Element)と呼ばれ内部反射素子と呼ばれるが、原文ではIRE, ATR結晶等が混在しているため,ここではATR素子とした。
【抄録】
光学的な分析技術において、中赤外(MIR)分光法は、ルーチン分析だけでなく、有望な計測ツールとして注目されている。2.5〜25μm領域における透過スペクトルは、固体、液体、または気体のサンプルを分析するために最も一般的に適用される測定技術の一つである。しかし、従来の赤外分光法を用いた不透明なサンプルの直接分析は、溶媒等の強いバックグラウンド吸収のために測定できない場合がある。 ATR測定法 は、全反射の基本的な原理に基づいている分光法で、透過法に代わる有用な測定法である。生物医学、環境用途を含む広い範囲のサンプルに適用可能で、学術および産業界で広く使用されている。そのため、現在様々なATRアクセサリーが、あらゆる種類のFT-IR分光計用に市販されている。ATRアクセサリーの性能および感度は、主にATR素子の特性によって決定される。ATR素子としては、セレン化亜鉛(ZnSe)やシリコン(Si)が頻繁に使用されるが、赤外分光の窓に適した様々な材料、ゲルマニウム(Ge)、臭化タリウム(KRS-5)、ダイヤモンドに加えて、光ファイバーの用途に適したカルコゲナイドガラスや多結晶ハロゲン化銀等も使用することができる。
種々の選択ができるために、特定のアプリケーションに最も適切なアクセサリーやATR素子を選択することは難しい。ATRを含む様々な装置構成で多数の文献があるが、利用可能なATRアクセサリーを選択するための感度及び信号対雑音比(SNR)を含む絶対性能を比較するという考え方はない。本研究では、いくつかのATR素子を含む四つの異なるATRアクセサリーについて、簡単かつ容易に入手可能なサンプルを使用して評価を行った。
<ATRアクセサリー>
以下の4種のアクセサリーについて評価を行った。
Type1…… 1500psiの圧力まで動作可能な液用のアクセサリー。サンプル液は円筒状
(82mm×6.4mm)のATR素子(Ge又はZnSe)の周囲を流れ、測定室の体積は
1.3mLである。赤外光はATR素子の表面を12回反射する。
Type2-1……少量のサンプルボリューム(2~300μL)で測定可能な生物製剤サンプルの
研究に適した7又は8回反射する400μm厚のSiにコーン状のZnSe結晶がSi
円板に結合されATR素子となっている。
Type 2-2……Type2-1とよく似た構造を持っているがSiの厚さにより(350μm又は
250μm)12または23回の内部反射になる。入射角は30°。ATR素子に
ダイヤモンドを使用する場合 (250μm)は45°になる。
サンプルボリュームは2~300μLで測定が可能である。
Type 3……台形のZnSe ATR素子を持ち内部反射は10回で、45°の端面で赤外光を
入射させる。実効的なATR素子の大きさは6cm×1cm。
<サンプル>
溶存炭酸ガス水溶液……脱イオン水に炭酸ガスを飽和(1.7g/L、21℃、1気圧)させ、
1:2,1:3,1:4に希釈させた。
炭酸カリウム水溶液……5g/Lの水溶液を1:2,1:3,1:4に希釈させた。
酢酸ナトリウム水溶液……10g/100mLの水溶液を1:2,1:3,1:4に希釈させた。
<性能評価>
ATRアクセサリーの性能が、感度、SNR、ノイズ(Peak to Peakノイズ比)、効率(感度/ノイズ)で評価された。評価に使用したピークは、溶存CO2は2343cm-1、酢酸は1550及び1413cm-1、炭酸カリウムは1390cm-1である。スペクトルはそれぞれのATRアクセサリーにより大きく異なる結果になっている。また同じ構造のATRアクセサリーでもATR素子の材質によりスペクトルは大きく異なる。
それぞれの感度を決定するために、ピーク面積に対する濃度の校正関数が求められた。積分領域は CO2: 2347-2333cm-1,酢酸:1570-1505cm-1, 炭酸:1465-1310cm-1である。校正関数から感度(吸光度変化/濃度変化)を得た。感度はATR素子材質だけではなくアクセサリー構造により大きく異なる。又波数領域により感度は大きく異なり、1390cm-1で相対的に感度が悪いものが1550cm-1では感度がよくなる場合もある。
<複数反射と実行浸み込み深さについての考察>
従来のATR 理論では、近似的にn回反射の吸光度は1回反射のn倍になる。しかし実験でATR素子の反射回数を12から23に変えても吸光度は2倍にならない。これを解釈するために2つの仮説をした。
1. スペクトルにおける吸光度の変化は、反射回数よりも光学的スループットに関連する
ATR素子の位置と品質、全体の調整に依存する。
2.理論的計算は巨視的なスケールで台形のATR素子を考えていて、実際の薄い
ATR素子を用いたZnSeと結合したシステムに直接適用できない。
<ノイズレベルと効率>
感度のほかにノイズ(Peak to Peak)とSNRが性能を考える上での重要なファクターとなる。ATRアクセサリーのノイズを決定するために、それぞれのアクセサリーで水の2つのシングルビームスペクトルが連続して測定され、吸光度に変換された。SNR(Peak to Peak比)の対象となる波数域は2500-2300 cm-1及び1600-1300cm-1である。ノイズは感度と逆の関係にある結果となった。又ATR素子の材質と反射回数が同じATRアクセサリーではほぼ同じノイズになった。SNRは感度とほぼ同じ傾向となった。感度は反射回数が増すと増加し、ATR素子の厚さが薄くなると減少するので、ATR素子の開口が減少することを考慮すべきだ。そのためATR素子を通すと光は減少し吸光スペクトルのノイズは増加する。これをより深く表すためにそれぞれのATR アクセサリーの効率Ef(平均感度/平均ノイズ)という考え方を導入した。構造がほぼ同じTypeIIのATRアクセサリーで反射回数8,12,23の効率を計算したところATR効率は反射回数ときれいな相関があることが判った。
<結論>
再現がよく、簡単な調合が可能な標準サンプルを使用して 構造が違うATRアクセサリーと異なったATR素子材質の性能の比較とランク付けをするために感度、SNR、新しく導入された効率を調べた。4種のATRアクセサリーといくつかのATR素子材質を比較することによって性能の大きな差が明らかになった。このような研究が広がり、応用分光研究者のためのデータベースができ、個別の測定のため最も適当なアクセサリーの選別を支援するようになることを期待する。
2016年8月12日金曜日
<文献検索から>(21) 四塩化炭素中のメタノール-ピリジンの複合体形成によるメタノールのOH 伸縮振動の基本音と倍音の吸光強度変化と振動数シフト:近赤外及び赤外分光法とDFT計算による解析
題名:Absorption intensity changes and frequency shifts of
fundamental and first overtone bands for OH stretching
vibration of methanol upon methanol–pyridine complex
formation in CCl4: analysis by NIR/IR spectroscopy and
DFT calculations.
著者:Y. Futami, Y. Ozaki and Y. Ozaki
著者:Y. Futami, Y. Ozaki and Y. Ozaki
出典:Phys.Chem.Chem.Phys.,2016, 18, 5580
<用語>DFT(Density functional Theory)……密度汎関数理論
<用語>DFT(Density functional Theory)……密度汎関数理論
【抄録】
倍音、組み合わせモード、非調和性と振動ポテンシャル等の近赤外(NIR)分光法の基礎研究は、スペクトル解析の進歩と量子化学計算の発展により顕著な進展をしている。倍音は調和振動子近似では禁止され、分子振動の非調和性に起因している。それゆえNIR領域の吸収帯域の振動数や強度は分子内または分子間相互作用のような分子構造(NH–N, OH–O, N(O)H,……π水素結合等)に敏感である。倍音の強度が、振動量子数の増加に伴い指数関数的に減少することは、強度分布の法則として知られている。吸収強度は、振動波動関数と双極子モーメント関数から計算される。OHおよびNHの水素結合の形成は、基本バンドの吸収強度を増加させるが、OH(NH)基に結合した水素の伸縮モードの第一倍音を測定することは非常に困難であることがよく知られている。
我々は、四塩化炭素溶液中のピロール-ピリジン複合体の形成と溶媒の変化に依存するピロールのNH伸縮振動の基本音と第一倍音の吸収強度の変化と振動数シフトを調査するためにNIR/ IR分光法および密度汎関数理論(DFT)計算を使用してきた。振動数シフトを伴う吸収強度の変化の変動は、ピロールとピロール-ピリジン複合体では全く異なっていた。分子間水素結合に関与しているメタノールOH伸縮モードの第一倍音に依存する吸収帯、または水素結合形成前後の第一倍音の吸収強度変化に関する明確な測定と解析についての報告はない。
本研究では、四塩化炭素中のメタノール - ピリジン複合体を形成する際のメタノールのOH基本音と第一倍音伸縮振動の吸収強度変化と振動数シフトを調べた。
ピリジンは、代表的なプロトンアクセプタであり、OH伸縮バンドと重なるピークを持っていいない。ピロール - ピリジン複合体に関する我々の前のNIR/ IRの研究では、水素結合したNH基伸縮の第一倍音に依存する吸収帯を実験的に測定することができなかった。本研究においては、水素供与体および水素受容体の量を調整することにより、実験によるメタノールのOH基伸縮モードの水素結合第一倍音吸収帯を測定することに成功した。メタノール-ピリジン複合体のOH-N水素結合のOH伸縮モードの第一倍音に依存する非常に弱いピークを観察することができた。水素結合の形成は、基本音の吸収強度を19倍増加させ、第一倍音を1/6減少させる。
さらにDFT計算を用いて、メタノールおよびメタノール-ピリジン複合体の最適化構造を推定した後、一次元シュレディンガー方程式に基づきOH伸縮振動のための基本音と第一倍音の吸収強度と振動数を算出した。量子化学計算は、上記の強度変化とよく似た結果を示した。 DFT計算は、振動ポテンシャルと双極子モーメント関数は、水素結合の形成に大きく変化することを示した。振動ポテンシャルにおいて、水素結合により解離エネルギーは減少し、双極子モーメントの傾きは増加する。解離エネルギーの減少は、また非調和性の変化にもみられる。双極子モーメント関数の大きな変化は、基本音と第1倍音帯の吸収強度の変化のための主要な原因である。
この結果は、NIR分光分析の将来のアプリケーションのための基本的な知識となる。
【実験条件及び量子化学計算方法】
サンプル:四塩化炭素中のメタノール0.005~0.5mol/dm-3
使用分光器:FTIR(測定波数域12000~2500cm-1)
分解能:1cm-1、使用セル:矩形石英パス長10mm10mm
量子化学計算ソフト:Gaussian 09 (with the 6-311++G(3df,3pd))
2016年4月4日月曜日
<文献検索から>(20) 近赤外(NIR)スペクトルを基礎にした医薬品賦形剤製造業者の判別に対する多変量戦略の応用
題名:Application of Multivariate Strategies to the
Classification of Pharmaceutical Excipient Manufacturers Based on Near-Infrared
(NIR) Spectra
高分解能NIRスペクトルと、高度なケモメトリック法を使用することによって品質管理における近赤外分光法の判別能力を改善することが出来た。
この結果は異なる製造業者の製品間での差が何か、なぜ同じ賦形剤を一つの業者から他の業者に変えたときに性能のバラツキが起こるのかを理解するだけではなく、賦形剤供給チェインにおける品質管理において近赤外分光法がスペクトルと賦形剤の性能と相関があって判定の根拠として使用できることを示した。
今回使用したようなサンプルセットを短期間で集めることは難しいので、広範囲のデータ収集したデータベースが必要になり、多くのサンプルの収集、継続的な改善、再校正、新サンプルを持つモデルの検証が製品ライフサイクル管理計画の一部となるだろう。
著者:Ting Wang, Ahmed Ibrahim, Alan R. Potts,
Stephen W. Hoaga
出典:Applied Spectroscopy Volume 69, Number 11, p1257-1270 (2015)
【抄録】
賦形剤市場におけるサプライチェーンのグローバル化、賦形剤製造業者の数と多様性は増加しており、賦形剤の誤認及び品質管理のリスクも増加してきている。
最小限のサンプルで迅速かつ信頼性の高い測定が、賦形剤の誤認判別と品質管理のために必要とされ、最終の医薬製品の性能と測定との相関を確立できる手法が望まれている。
近赤外分光法はデンプン、糖、およびセルロースなどの賦形剤または化学的に類似の賦形剤、例えば、セルロース誘導体など、医薬の多くの異なる種類を識別するために適用されている。非破壊分析手法として近赤外拡散反射分光法が粒径の異なる微結晶性セルロース(MCC)に適用された。
本論文の目的は、米国薬局方(USP)の規定内だが、製造業者によりわずかの違いがあるMCCの近赤外(NIR)スペクトルからケモメトリックスモデルを開発し製造業者を予測するための多変量解析戦略を検討することにある。
NIRスペクトルを用いて、薬局方に従って同一性がある医薬賦形剤を体系的にモデル化し製造業者を予測するような研究は従来ない。
MCCの分光学的違いを調べた。これらのサンプルは、化学的、物理的特性に微妙な違いを持っていて、賦形剤として使用される際の違いの原因となる。近赤外(NIR)スペクトルを使用して、MCCの製造業者を分類するためのモデルを構築し、これらの違いを検証した。
アメリカ、日本、台湾、ドイツ、ブラジルの5つの地域(異なる業者)で製造された水分含量、粒子サイズ、かさ密度等が異なるサンプルが1年間にわたって収集された。これらのサンプルは39サンプル のキャリブレーションセットと9サンプルのテスト用セットに分けられた。
分解能0.5nmで測定されたスペクトルがSNV、サビツキー・ゴーレイの2次微分、Mean Centeringの前処理が施され最適化された。
賦形剤分類のために従来使用されている方法は、パターン認識方法(例えば、SIMCA)でモデルを構築するために、比較的大きなサンプルサイズが必要だが、部分最小二乗判別分析(PLSDA)はSIMCAに比べ小さいサンプルサイズの分類に適用されている。
教師なし分類法である主成分分析(PCA)が、同じ前処理を行ったデータセットで適用され、教師付き分類方法のPLSDAの結果と比較された。
PCAではサンプルのスコアプロットはいくつかのクラスターに分かれるが、製造業者間の違いは明確ではない。一方PLSDAによるサンプルのスコアプロットは、製造業者に依存するグループの違いを明らかを示している。賦形剤分類のために従来使用されている方法は、パターン認識方法(例えば、SIMCA)でモデルを構築するために、比較的大きなサンプルサイズが必要だが、部分最小二乗判別分析(PLSDA)はSIMCAに比べ小さいサンプルサイズの分類に適用されている。
教師なし分類法である主成分分析(PCA)が、同じ前処理を行ったデータセットで適用され、教師付き分類方法のPLSDAの結果と比較された。
高分解能NIRスペクトルと、高度なケモメトリック法を使用することによって品質管理における近赤外分光法の判別能力を改善することが出来た。
この結果は異なる製造業者の製品間での差が何か、なぜ同じ賦形剤を一つの業者から他の業者に変えたときに性能のバラツキが起こるのかを理解するだけではなく、賦形剤供給チェインにおける品質管理において近赤外分光法がスペクトルと賦形剤の性能と相関があって判定の根拠として使用できることを示した。
今回使用したようなサンプルセットを短期間で集めることは難しいので、広範囲のデータ収集したデータベースが必要になり、多くのサンプルの収集、継続的な改善、再校正、新サンプルを持つモデルの検証が製品ライフサイクル管理計画の一部となるだろう。
2016年2月9日火曜日
<文献検索から>(19) ラマン分光と多重摂動2次元相関分光法を使用したポリエチレン特性の測定精度改善ための最適温度とその原因解明
題名:Improved Accuracy for Raman Spectroscopic Determination of
Polyethylene Property by Optimization of Measurement Temperature and
Elucidation of Its Origin by Multiple Perturbation Two-dimensional Correlation
Spectroscopy
著者:S. C. Park, H. Shinzawa, J. Qian, H. Chung, Y. Ozaki
and M. A. Arnold出典:Analyst 136, 3121-3129 (2011)
【抄録】
ラマンスペクトルはポリエチレン(PE)サンプルの密度を精度よく測定することが出来るという報告がある。しかしその報告は室温測定の結果であり、ポリマーのスペクトルは温度変化に敏感である。このため室温以外の温度でサンプルを測定することにより、ラマン測定を使用したPEの密度測定の精度を改善できる可能性がある。精度改善が出来る最適な温度の存在を調べるため、ホモPEポリマー、共重合PE(co-polymer;1-ブテン、1-オクテン)を含む25種類の異なる密度を持つPEペレットのラマンスペクトルが8種の異なる温度(30~100℃、10℃毎に)で測定された。それぞれの温度で測定したスペクトルデータセットからPLC(Partial Least Square)を利用して検量線モデルが作成された。基準PE密度値は、密度勾配管を使用し23℃で測定された。異なる密度を持つPEペレットのラマンスペクトルは、温度変化によって1504~1054cm-1の領域でピーク強度、波数位置、ピーク幅の項目で異なった振る舞いをすることがわかった。
30~100℃、10℃毎に測定したスペクトルを使用し、PLSを使用してそれぞれの温度で密度の検量線を作成し、その精度を比較したところ70℃で測定したスペクトルを使用した検量線の精度が一番良かった。(評価指標:Men Standard Error of Calibration(MSEC)とMean Standard Error of Prediction (MSEP)) 70℃がなぜ一番良い結果となったのかを調べるために、PLSのLoadingを調べた。全体的に見て、Factor2のLoadingは温度変化による構造変化が60~70℃あたりで始まっていることを示していると思える。
多重摂動2次元相関法(MP2D)を使用して、測定温度の異なる8種類のスペクトルデータを解析した。1180-1100 cm-1では同時に強度が低くなるバンドシフトを示すパターンが観測され、結晶構造と非晶質構造の変換を示している。1500~1300 cm-1領域のMP2Dの強度と形はホモPEと共重合PEとではまったく異なる。これらの特徴は共重合PE間では良く似ている。この差はホモPEのCH2構造の熱的振る舞いが、共重合PEとは異なることを示している。2つの共重合PEのCH2構造は溶融温度(Tm)よりかなり下でもホモPEのCH2に比べて熱的刺激に敏感である。共重合PEのような半結晶性ポリマーは液体のような非晶質(アモルファス)基質(マトリックス)の中に折りたたまれたラメラ結晶で構成された複雑な超分子構造を持つことが知られている。この構造のためTm以下でも、共重合PEではpre-melting(前溶融)として知られる微小結晶の部分溶融が起こることになる。1500~1300 cm-1領域におけるMP2Dの強度と形の違いはpre-meltingによると考えられ,MP2Dから得られる結果は示差走査熱量測定(DSC)の結果と一致している。
MP2D解析はTmより低い温度でのPre-meltingを説明できたが、70℃で精度が改善された理由については説明できない。同時サンプル-サンプル相関強度はサンプル間の特徴が似通っているときのみ強くなり、サンプル間の類似度を効率よく表すことが出来る。そのためMP-Sample-Sample2次元相関(MPSS2D)を使用した。ホモ、1-ブテン、1-オクテンの30-100℃データについてMPSS2Dを使用した結果は、3種のポリマーとも同じような傾向を示し70℃で相関強度は最低になった。これはサンプルが70℃で構造的に最も異なっていることを示し、微小結晶領域における部分的な溶融(pre-melting)の発生温度に一致している。このポリマーの構造変化によりサンプル間のスペクトルの差が大きくなり定量分析の性能が改善されたと考える。MPSS2Dを使用して70℃で測定されたサンプルのラマンスペクトルで作成された密度の検量線が最も良い結果を出す理由について説明することが出来た。
2016年1月4日月曜日
<文献検索から>(18)バイオ医薬品製造モニターのためのIn-Situ近赤外(NIR)分光法と高効率の中赤外(MIR)分光法
題名:In Situ Near-Infrared (NIR) Versus High-Throughput Mid-Infrared
(MIR) Spectroscopy to Monitor Biopharmaceutical Production)
著者:R. C. Sales, F. Rosa, P. N. Sampaio, L. P. Fonseca, L. P. Lopes, C. R. C. Calado
出典:Applied Spectroscopy Volume 69,No6, 2015, P760-770
正しいバイオプロセスの理解は、最適でより経済的な製造プロセスへプロセス開発をスピードアップし、さらに先進的なプロセス制御を用いることにより変動の原因決定とプロセス変動に対する最終的な対策が可能になるかもしれない。バイオ医薬品とバイオプロセス制御の開発スピードアップの必要条件は適当なモニター技術の開発にある。しかしOn-lineモニターとして利用できるのは温度、pH、DOC、スターラー回転スピード、ガス、流体の流量等ごくわずかなものだけだ。バイオプロセスの残った重要なパラメーター(すなわちバイオマス(生物量)、栄養源、抑制物質、製造物)は通常バイオリアクターから取り出されoff-lineで酵素分析、HPLC、免疫学的測定等で解析される。これらのOff-line解析は高価格、汚染のリスク、サンプリングが必要で解析に時間がかかる等いくつかの課題がある。開発をスピードアップして、これらの厳しい製造工程を制御するために高い効率とOn-lineモニタリング技術を開発することが急務になる。MIR/NIR分析は、On-line分析に使用できる候補のひとつである。
この文献ではプラスミドを製造用の組み替え大腸菌培養におけるモニタリングを対象としてMIRとNIRについて比較を行う。ロバストなPLS(Partial least square 部分最小二乗法)検量線を作成するために、栄養源としてグリセリン、グルコース、グルコースとグリセリン混合物の3種類を使用し培養の種類(回分培養と流加培養)をかえて培養を行い、at-lineのMIRとin-situのNIRで測定を行った。グリセリンを栄養源とした培養では、グルコースを使用した培養より2倍のプラズミドを製造できた。酢酸塩の生成を最小にすることで、バイオマスと製造物が増加する。グリセリンとグルコースの混合物を使用した培養が、他の二つに比較して最もプラスミドの製造効率(4.4mg/L/H)が高く、高濃度(42mg/L)であった。
NIR分光分析(波数域: 12500~5400cm-1,分解能8cm-1)では、パス長2mmの近赤外透過反射プローブを培養液に挿入して、光ファイバを使用して測定を行った。
MIR分光分析(波数域: 4000~500cm-1,分解能4cm-1)では、培養液から遠心分離された細胞ペレットは、再懸濁されて赤外透過測定用のZnSeマイクロタイタープレートにおかれ真空脱水された後、透過測定された。MIRでも培養液に挿入できるATR(Attenuated Total Reflection)プローブを使用することが可能であるが、使用可能なファイバの長さが短い等のNIRに比較して使用しにくいという欠点がある。
NIRとMIRのスペクトルから作成したPLSの検量線による予測結果を比べると、ほぼ同じような傾向であったが、バイオマスについては、NIRの予測誤差はRMSE(Root Mean Square Error)でMIRの予測誤差の43%、グリセリンではMIR予測誤差の50%となった。これはNIRとMIRの違いではなく、NIRでは培養液を直接測定しているのに対し、MIRでは遠心分離して再懸濁などの前処理をしているためかもしれない。培養液に挿入できるATRプローブを使った赤外の測定例では近赤外より誤差が小さいという報告がある。バイオプロセス制御(特に培養槽が大きい場合)の場合、On-lineでコンタミの心配なく測定が可能なので高圧蒸気洗浄で滅菌した近赤外の透過反射プローブが使用されるべきだ。複数の培養から数百のサンプルをとり、マイクロタイタープレート等を使用して自動ですばやく測るにはMIRが向いている。
著者:R. C. Sales, F. Rosa, P. N. Sampaio, L. P. Fonseca, L. P. Lopes, C. R. C. Calado
出典:Applied Spectroscopy Volume 69,No6, 2015, P760-770
【抄録】革新的で効果的なバイオ医薬品は製薬業界の最先端である。Top20の医薬品の内8種類はバイオ医薬品であり2012年度の研究開発費の40%以上がバイオ関連で165billion$以上の開発費が使われている。バイオ医薬品はくみかえDNA 、制御された遺伝子発現法、又はその組み合わせた方法を使って導出されたたんぱく質又は核酸である。
しかしバイオ医薬品の開発には、これらの分子が生きた細胞によって合成されるため生成能力に関係する固有の変動性が存在し、さらに製造環境に対し敏感に反応する等いくつかの現実的な問題がある。正しいバイオプロセスの理解は、最適でより経済的な製造プロセスへプロセス開発をスピードアップし、さらに先進的なプロセス制御を用いることにより変動の原因決定とプロセス変動に対する最終的な対策が可能になるかもしれない。バイオ医薬品とバイオプロセス制御の開発スピードアップの必要条件は適当なモニター技術の開発にある。しかしOn-lineモニターとして利用できるのは温度、pH、DOC、スターラー回転スピード、ガス、流体の流量等ごくわずかなものだけだ。バイオプロセスの残った重要なパラメーター(すなわちバイオマス(生物量)、栄養源、抑制物質、製造物)は通常バイオリアクターから取り出されoff-lineで酵素分析、HPLC、免疫学的測定等で解析される。これらのOff-line解析は高価格、汚染のリスク、サンプリングが必要で解析に時間がかかる等いくつかの課題がある。開発をスピードアップして、これらの厳しい製造工程を制御するために高い効率とOn-lineモニタリング技術を開発することが急務になる。MIR/NIR分析は、On-line分析に使用できる候補のひとつである。
この文献ではプラスミドを製造用の組み替え大腸菌培養におけるモニタリングを対象としてMIRとNIRについて比較を行う。ロバストなPLS(Partial least square 部分最小二乗法)検量線を作成するために、栄養源としてグリセリン、グルコース、グルコースとグリセリン混合物の3種類を使用し培養の種類(回分培養と流加培養)をかえて培養を行い、at-lineのMIRとin-situのNIRで測定を行った。グリセリンを栄養源とした培養では、グルコースを使用した培養より2倍のプラズミドを製造できた。酢酸塩の生成を最小にすることで、バイオマスと製造物が増加する。グリセリンとグルコースの混合物を使用した培養が、他の二つに比較して最もプラスミドの製造効率(4.4mg/L/H)が高く、高濃度(42mg/L)であった。
NIR分光分析(波数域: 12500~5400cm-1,分解能8cm-1)では、パス長2mmの近赤外透過反射プローブを培養液に挿入して、光ファイバを使用して測定を行った。
MIR分光分析(波数域: 4000~500cm-1,分解能4cm-1)では、培養液から遠心分離された細胞ペレットは、再懸濁されて赤外透過測定用のZnSeマイクロタイタープレートにおかれ真空脱水された後、透過測定された。MIRでも培養液に挿入できるATR(Attenuated Total Reflection)プローブを使用することが可能であるが、使用可能なファイバの長さが短い等のNIRに比較して使用しにくいという欠点がある。
NIRとMIRのスペクトルから作成したPLSの検量線による予測結果を比べると、ほぼ同じような傾向であったが、バイオマスについては、NIRの予測誤差はRMSE(Root Mean Square Error)でMIRの予測誤差の43%、グリセリンではMIR予測誤差の50%となった。これはNIRとMIRの違いではなく、NIRでは培養液を直接測定しているのに対し、MIRでは遠心分離して再懸濁などの前処理をしているためかもしれない。培養液に挿入できるATRプローブを使った赤外の測定例では近赤外より誤差が小さいという報告がある。バイオプロセス制御(特に培養槽が大きい場合)の場合、On-lineでコンタミの心配なく測定が可能なので高圧蒸気洗浄で滅菌した近赤外の透過反射プローブが使用されるべきだ。複数の培養から数百のサンプルをとり、マイクロタイタープレート等を使用して自動ですばやく測るにはMIRが向いている。
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