2017年11月30日木曜日

<文献検索から>(26) 医薬品農業サンプルの定量分析へのMCR-ALSの応用


題名:Application of multivariate curve resolution alternating least squares (MCR-ALS) to the quantitative analysis of pharmaceutical and agricultural samples

著者:T. Azzouz, R. Tauler
出典:Talanta 74 (2008) 1201–1210

この研究では、2つのサンプルの定量分析が検討されている。医薬品中の混合成分のUV-vis分光による分析と近赤外分光(NIR)による飼料サンプルの分析である。UV-vis吸収測定は、迅速で安価で医薬品製剤の分析に適しているが、異なる成分の吸収帯が大きく重なっているために一般的な適用に限界がある。医薬製剤は、通常、医薬原薬成分と、同じスペクトル領域で吸収する種々の賦形剤との混合物である。重なり合ったスペクトルの波形分解を基礎にした多変量解析法の開発は、迅速なスペクトル分解と定量化を可能にする。一般的に、多成分試料中の目的の分析対象物すべてについて完全に選択的な分析信号を得ることは非常に困難である。そのため、クロマトグラフィーまたは他の分離分析法による物理的分離、或いは多変量解析を用いた数学的分解法は、特に複雑な天然試料の分析における定量分析に有用である。部分最小二乗法(PLSR)のような多変量解析法とは、別に種々のケモメトリック法が存在する。この研究で提案されているMCR-ALSは、分光学的手段を用いて複雑な混合物の定量分析が可能である。

【多変量波形分解 - 交互最小二乗法(MCR-ALS法)】
第1Step:予測した成分数の初期濃度ベクトルを作成する。
    (初期条件として、構成成分の濃度情報又は純粋スペクトル情報を必要とする)
第2 Step:測定データのマトリックスと、上記濃度の疑似逆行列から予測スペクトル
         マトリックスを得る。
第3 Step:予測スペクトルマトリックスと測定データマトリックスより
         疑似成分予測ベクトルを得る。
    あらかじめ設定した拘束条件を満たすまで、順次表記ステップを繰り返す。

拘束条件
   ①非負濃度拘束……成分濃度がマイナスになることはない。
   ②非負スペクトル拘束……スペクトルの吸光度がマイナスになることはない。
   ③相関拘束……ある特定した成分の予測濃度が、初期の濃度と一定の相関がある
                という仮定(この論文で提案された拘束)

【部分最小二乗回帰(PLSR)】
  この回帰方法は、分光データ(データ行列)および濃度データ(濃度ベクトル)の両方
  に含まれる情報を効率的に使用して、サンプル中の分析対象物濃度の予測モデルを構築
  する。PLSRアルゴリズムは、データ行列と濃度ベクトルとの共分散を最大にする連続す
  る直行因子を選択する。

【実験結果】
<医薬品中の混合成分>
  市販薬MicrogynonとNeogynona中のエチニルエストラジオール(卵胞ホルモン剤、前立腺
  癌薬)とレボノルゲストレルステロイド(避妊薬)のUVスペクトルを、MCR-ALSで解
 析し濃度値をPLSRの結果と比較した。使用測定波長は250-300nmが最適であった。得ら
 れた誤差は、 PLSRが少し良い値を示したが、MCR-ALSとPLSRでほぼ同じオーダーで
 あった。同じ成分が入っている褐色の市販薬Triagynonについても定量分析を行い同様の
 結果を得た。MCR-ALSによって得られたスペクトルは、エチニルエストラジオールおよ
 びレボノルゲストレルの純粋な標準のスペクトルと一致する。対照的に、PLS回帰は、
 混合物中に存在する成分の濃度を予測するが混合物の成分の純粋なスペクトルの推定は
 できない。MCR-ALSの明らかな利点は、成分の純粋なスペクトルを含めて定性的情報を
 得られるという点にある。
<NIRで測定したライグラス(Ray-Grass:細麦)の湿度とタンパク質含量の定量>
  ライグラス中の水分とタンパク質の定性/定量的情報を得るためにMCR-ALSとPLSRを適
  用し結果を比較した。水分測定に関しては、PLSRとほぼ同等(PLSRの方が若干良い)
  であったが、タンパク質については、PLSRは明らかにMCR-ALSより優れていた。MCR-
    ALSモデルに比較してPLSRは多数のコンポーネント(Factor)を使うことが出来るため
  と考えられる。 MCR-ALSによって得られたスペクトルは、飼料中の湿度とタンパク質に
 関する文献で以前に報告されたNIRスペクトルによく似ていた。

【結論】
  未知の混合物および天然試料中の干渉のあるサンプルに新しい相関制約を適用する
  MCR-ALSの能力は、一般に、PLSRを用いて得られた結果と同等であった。
  MCR-ALSを使用する主な利点は、測定対象成分と未知物質の差異についての
  スペクトル情報が得られることである。

2017年9月10日日曜日


<文献検索から>(25) 量子化学計算に裏付けされたローズマリー葉に含まれるロズマリン酸の近赤外分光法と赤外全反射分光法による定量測定の評価

題名:Critical Evaluation of NIR and ATR‑IR Spectroscopic Quantifications of Rosmarinic Acid in Rosmarini folium Supported by Quantum Chemical Calculations
著者:C. G. Kirchler, C. K. Pezzei, K. B. Beć, R. Henn, M. Ishigaki, Y. Ozaki, C. W. Huck1
出典:  Planta Medica April 2017

 用語:ロズマリン酸
ローズマリー、シソなどのシソ科の植物に含まれているポリフェノール。ロズマリン酸は低分子ながらタンニン活性を示す物質としても知られている。ロズマリン酸の抗酸化作用によりアレルギー症状を抑える効果がある。タンニン:タンパク質などと結合する水溶性ポリフェノール
 
【抄録】
本研究では、ローズマリー葉に含まれるロズマリン酸含量の測定における近赤外(NIR)および全反射赤外分光(ATR)の性能を評価した。さらに、量子化学計算を用いて、ロズマリン酸の理論的な赤外スペクトルを得て、測定スペクトルと比較した。
「漢方薬」又は「伝統医学」での生薬の重要性は過去数十年に著しく増加している。2004年以来、欧州医薬品庁(EMA)の一部であるHMPC (European Medicines Agency's Committee on Herbal Medicinal Products)は、ハーブの物質、調製物、および組み合わせのためのモノグラフを公開している。 本研究の対象であるローズマリー葉について、HMPCは、胃腸および消化器障害の軽度の痙攣性疾患の症状緩和のための治療に適応するとしている。ローズマリーの葉は約1.1〜2.5%のロズマリン酸(RA)を含む。RAの酸化防止効果は、そのフェノール酸またはヒドロキシケイ皮構造に基づいており、ラジカル消去活性はフェノール性ヒドロキシル部分によると推論されている。 RAの主な効果は、抗ウイルス、抗菌、抗酸化、抗炎症等である。
赤外分光法は、光と物質との相互作用に基づいており、分子振動の励起中の双極子モーメントの変化を必要とする。 MIR領域(4000〜400cm-1)は、基本振動による吸収によって主に支配される。特にC = OまたはC-Oのような極性基の基本的な振動遷移が最も顕著である。 一方、NIR領域(12821〜4000cm-1)では、吸収は一般にC-H、O-H、およびN-H部分の倍音振動および合成振動に由来する。MIRおよびNIR分光法の単純化モデルは、両方の技術の大きな違いを表している。 したがって、本研究では、ATR-IRとNIR分光法のローズマリー葉のロズマリン酸(RA)含量を定量する能力の比較と評価を扱う。
粉砕されたローズマリー葉42サンプルは、HPLC-DAD (Diode array detector) 分析で測定されたロズマリン酸標準値(1.138~2.199%)と近赤外(NIR)と赤外全反射(ATR-IR)スペクトルとの相関を、部分最小二乗法(PLS)を使用して調べた。HPLC-DAD分析の結果は、RA濃度範囲:1.138-2.199 %で相関係数R2; 0.9997、LOD (Limit of Detection):0.067 %; LOQ (Limit of Qualification):0.120 %であった。
クロスバリデーション(CV)とtest-setを使用した評価は、NIRとATR-IRで(NIR: test-setによる相関係数0.9、CVによる標準誤差:0.06、ATR-IR:test-setによる相関係数0.91、CVによる標準誤差:0.063)とほぼ同等の結果となった。
測定されたスペクトルをより深く理解するために、量子力学的計算によってRAの理論的IRスペクトルを計算した。RA分子の構造およびその後の振動分析は、ハイブリッド密度汎関数により、信頼できるスペクトルの波数と強度を計算できることが過去の文献に示されているのでDFT(密度汎関数)理論で行った。低波数域で純粋なロズマリン酸のスペクトルと良好に一致したが、波数が高い領域では一致度が劣った。




 

 

2017年4月23日日曜日

<文献検索から>(24) インライン発酵モニターのための赤外光ファイバーと鏡面反射光学系を使用した減衰全反射(ATR)フーリエ変換赤外(FT-IR)の比較


題名:Comparison of Fiber Optic and Conduit Attenuated Total Reflection (ATR) Fourier Transform Infrared (FT-IR) Setup for In-Line Fermentation Monitoring
著者:Cosima Koch, Andreas E. Posch, Christoph Herwig, and Bernhard Lendl
出典:Applied Spectroscopy 2016, Vol. 70 (12) 1965–1973

【抄録】
    In-situ用の全反射(ATR)プローブの開発に伴い、バイオプロセス分析およびモニタリングのための中赤外領域(400-4000cm-1)フーリエ変換赤外(FT-IR)分光法は、バイオプロセスのインラインモニタリングおよび制御のための重要なプロセス分析ツール)となっている。 ATRプローブは光がサンプルに浸み込む深さが数マイクロメートルと限られているため、通常は発酵培地の主成分である水の吸収の影響で使用が制限されるが、部分最小二乗回帰(PLSR)等の多変量解析モデルを使用できる信頼性の高い分析システムが利用可能であれば、可溶性サンプルの定量が可能である。
    分光器とATRプローブを接続する2つの方法(中空光導管(光導管)と光ファイバー)がある。光導管は、ミラーを調整することによって光のスループットを最大にする必要がある。信頼性の高いスペクトルを得るためには調整位置に変化を加える振動等を避ける必要がある。インライン発酵モニタリングのために光導管プローブを使用する場合、攪拌器からの振動がFT-IR測定を損なう可能性があるため注意が必要である。光ファイバー内では、光は全反射によって透過され、透過範囲は材料特性に依存する。高波数限界は電子吸収(バンドギャップエッジ)によって決定され、低波数限界はマルチフォノンエッジに依存する。多結晶ハロゲン化銀(AgX)は、現在、FT-IR分光プローブのために最も一般的に使用される光ファイバー材料で指紋領域(1500-900cm -1)の測定が可能である。光ファイバーATRプローブを用いたバイオプロセスモニタリングに関する研究はほとんど発表されていない。
    ここでは、インラインバイオプロセスモニタリング用のプロセス分光器に接続された光ファイバー付きATRプローブ(以下RIR15)と光導管を用いた乾燥空気パージ付ATRプローブ(RIR45)のシステム性能を比較する。 両方のシステムを同じバイオリアクターに連結し、4つのPenicillium chrysogenum(ペニシリウム‐クリソゲナム:青かび)発酵を行い、生成物(ペニシリンV、以下PenV)およびその前駆体(フェノキシ酢酸、以下POX)をPLSRと組み合わせたFT-IR分光法と高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によってモニターした。光導管と光ファイバーを使用した ATR FT-IRシステムのそれぞれの利点と潜在的な短所について議論する。
   青カビ菌株4種のフェドバッチ発酵が、プロセス制御と管理システムが統合されたシステムを用いて15Lのオートクレーブを持つ攪拌型バイオリアクターによって実行された。 RIR15とRIR45の両方ともバイオリアクターに挿入された。
   PenVとPOX濃度は、バイオイアクターに組み込まれたアイソクラティックHPLCによって測定された値を検量線の基準値として使用した。 サンプリングレートはPenVとPOX濃度の変化に合わせて調整され、緩やかな変化が予想される場合、3時間ごとに行われたが、POXの添加中にはサンプリング間隔は16分(クロマトグラム実行時間)に短縮された。各々の構成について、オンラインHPLCサンプリング時間に最も近い3つのスペクトルを平均し、検量線作成に使用した。前処理はMean Centeringと1次微分で検量線はPLSRを使用した。
   RIR45の全体的な性能はRIR15の性能よりも良く、1400-1200cm-1のスペクトル領域において、RIR15はRIR45よりもRMSおよびPPノイズがそれぞれ約2倍大きく、予測値もわずかに低いRMSEPが得られた。RIR15で推定された濃度は、PenVとPOXの両方のRIR45よりもスペクトル毎のバラツキが大きい。全体的に、二つのシステムは、HPLCの値を基準にして約0.2g L_1以内のPOXおよびPenV濃度推定が可能であり、RIR45が相対的に良い結果となった。 バイオプロセスモニタリングのためのシステムを選択する際には、設置およびメンテナンスの容易さ(乾燥空気パージの有無等)と測定精度とコストとの間のトレードオフがなされなければならない。

2017年2月23日木曜日

<文献検索から>(23)2D-COSおよびPCMW-2D解析を用いたベンチトップFTIRとミニチュアハンドヘルド近赤外分光器を用いたポリアミド11の温度変化の比較研究


題名:Comparative Variable Temperature Studies of Polyamide II with a Benchtop Fourier Transform and a Miniature Handheld Near-Infrared Spectrometer Using 2D-COS and PCMW-2D Analysis

著者:Miriam Unger, Frank Pfeifer, and Heinz W. Siesler
出典:Applied Spectroscopy 2016, Vol. 70(7) 1202–1208
【抄録】
  この論文の主な目的は、小型ハンドヘルド近赤外(NIR)分光器とフーリエ変換近赤外線(FT-NIR)分光器の性能を比較することである。ポリウレタンおよび脂肪族ポリアミドの場合、温度上昇の関数としての水素結合の変化は、それらの熱的および機械的特性に大きな影響を及ぼす。この論文で調査されたポリアミド11(PA11)の可変温度NIRスペクトルの分析は、カルボニルとNH官能基との間の水素結合の温度変化に関する重要な情報を提供する。外部摂動によって誘発されるスペクトル変化は、2次元相関分光法(2DCOS)および摂動相関移動窓二次元(PCMW2D)分析法によって分析された。同期2DCOSは、外部摂動(ここでは温度の上昇)の変化の間の2つの別個のスペクトル間の全体的な類似性または同時の変化を表す。非同期2DCOSは、同期して相関されていないスペクトル強度の変動を表す。PCMW2D相関法は、スペクトル変数(ここでは波数)軸と摂動(ここでは温度)軸との2次元マップにプロットされた同期スペクトルと非同期スペクトルのペアを提供する。両方の技術の重要な利点は、外部摂動中の重なり合ったバンドの複雑なスペクトル強度変動を検出することができ、これらのスペクトル強度変動を引き起こす現象の連続的な順序を決定できることである。
  FT-NIR分光器と、小型NIR分光器の性能を比較するために、半結晶PA11シートの可変温度スペクトルを同じ実験条件下で測定し、2D-COSおよびPCMW2Dを使用して分析、評価した。6050~7500cm-1の波数域がFT-NIRおよび小型NIR分光器でそれぞれ測定された。この波数範囲は、2D-COSおよびPCMW2Dを使用して温度区間30-190℃における脂肪族セグメントの再結晶化および水素結合構造の変化に関する情報を抽出するために選択された。この波数域は、両方の分析器で利用可能なため、それぞれの2D-COSとPCMW2Dの結果を直接比較することができる。
スペクトルで観察される最も顕著な強度変化は、水素結合および遊離NH官能基(6400〜6800cm -1)の倍音(NH)領域で起こる。スペクトル分解能の大きな違い (データポイント間隔:4cm-1と43cm-1 ) にもかかわらず、6800〜6520cm -1間および6520〜6450cm -1間の両方のPCMW2Dは、水素結合種を犠牲にしてNHフリー官能基が生成することを示している。
  PCMW2Dデータとは対照的に、FT-NIRのより高いスペクトル分解能は、小型NIR分光器と比較してはるかに複雑な2DCOSクロスピークを示す。 FT-NIRでは同期および非同期の2D相関スペクトルにおいて、それぞれ3つおよび8つのクロスピークが観測されるが、小型分光計では、2つおよび3つのクロスピークのみが見える。
  FT-NIRおよび小型NIR分光器で測定されたPA11の可変温度NIRスペクトルの2D相関およびPCMW2D分析結果から、温度間隔30-190℃での脂肪族鎖構造における同期および変化の順序ならびにこのポリマーの水素結合に関する情報が得られた。40℃~110℃間の脂肪族鎖セグメントの再結晶の後、190℃での融点までに配座の乱れが起こる。スペクトル分解能の大きな差にもかかわらず、FT-NIRおよび小型NIR分光器で測定された可変温度スペクトルから調査されたポリマーの構造変化に関して同じような結論を引き出すことができることが判明した。


2017年1月11日水曜日

<スペクトルあれこれ>(12)マハラノビス距離とユークリッド距離


スペクトルを解析する際にマハラノビス距離をしばしば使用することがある。使用している割には、基本的な理解が欠けているかなと思いと、あらためてマハラノビス距離について見直してみた。2点間の距離を測定する際、一般的に使用するのはユークリッド距離だ。一方マハラノビス距離は、統計的な観点から距離をより一般化したものといってよい。
一次元の簡単な例を挙げる。仮に異常/正常を検査する簡易検査法があり、正常の標準値は2.5で異常の標準値は1であるとする。検査結果が1.8の場合は、ユークリッド距離を用いて、正常/異常の標準値の中間を境界(1.75)とすると、正常とみなされる。50回の検査結果について、他の方法で正常/異常を正確に調べたところ図Ar12-1となったとする。この結果からは正常/異常の境界は指標2あたりが妥当であり、1.8の検査結果は異常に分類する方が妥当であることがわかる。


これをマハラノビス距離で表したのが図Ar12-2で20回の正常な検査結果(指標2.46)の平均値からのマハラノビス距離を表している。異常と正常がきれいに別れ、正常/異常が明確に判別可能である。指標2はマハラノビス距離で7、1.8はマハラノビス距離で10となり異常に分類するのが妥当であることが確認できる。この場合のマハラノビス距離(MD)の計算式は12AR-1式となる。 



次にスペクトルのマハラノビス距離を考える。図Ar12-3と図Ar12-4に疑似吸光スペクトル例をしめす。図Ar12-3は20の疑似スペクトルの重ね書きである。図Ar12-4には図Ar12-3で示した20スペクトルの平均スペクトルと波長シフトと吸光度変化をした5スペクトルをしめした。

波長の10,15μmの吸光度を2次元のグラフにして図Ar12-5に示した。図Ar12-5では、重なりを防ぐためS2, S4の矢印を省略したが、ユークリッド距離は平均値(重心、黒丸●)からの距離を示す。一方マハラノビス距離は少し複雑な計算になる。12AR-1式は、個々のデータが独立の場合に使用できるが、スペクトルデータは一般に波長間のデータが相関を持つために12AR-1式は使用できない。多変量データに使用できる一般的なマハラノビス距離(マハラノビス汎距離)は12AR-2式で表せる。



図Ar12-4のデータを使用して12AR-2式から得たマハラノビス距離とユークリッド距離を図AR12-6に示す。S1~S5のスペクトルのマハラノビス距離が大きく拡大されていることが判る。この性質によりマハラノビス距離はスペクトル多変量解析においてアウトライヤー(外れ値)検知に使用される。多変量解析においてはスペクトルから直接マハラノビス距離を計算することは少なく、主成分分析などを行いその結果(スコア値)を使ってマハラノビス距離を計算しアウトライヤー検知を行うことが多い。



 


































……12AR-1


















2016年11月1日火曜日

<文献検索から>(22) 正しいツールの選択:赤外全反射吸収測定アクセサリーの分析性能の比較


題名:Selecting the Right Tool: Comparison of the Analytical Performance of Infrared Attenuated Total Reflection Accessories
著者:T. Schadle, B. Mizaikoff
出典:Applied Spectroscopy 70 (6), 2016, 1072-1079 
<用語と解説>
ATR(Attenuated Total Reflection)…他の文献に使用されている赤外全反射吸収測定と訳した。
ATRに使用されている素子は、一般にIRE(Internal Reflectance Element)と呼ばれ内部反射素子と呼ばれるが、原文ではIRE, ATR結晶等が混在しているため,ここではATR素子とした。
【抄録】
光学的な分析技術において、中赤外(MIR)分光法は、ルーチン分析だけでなく、有望な計測ツールとして注目されている。2.5〜25μm領域における透過スペクトルは、固体、液体、または気体のサンプルを分析するために最も一般的に適用される測定技術の一つである。しかし、従来の赤外分光法を用いた不透明なサンプルの直接分析は、溶媒等の強いバックグラウンド吸収のために測定できない場合がある。 ATR測定法 は、全反射の基本的な原理に基づいている分光法で、透過法に代わる有用な測定法である。生物医学、環境用途を含む広い範囲のサンプルに適用可能で、学術および産業界で広く使用されている。そのため、現在様々なATRアクセサリーが、あらゆる種類のFT-IR分光計用に市販されている。ATRアクセサリーの性能および感度は、主にATR素子の特性によって決定される。ATR素子としては、セレン化亜鉛(ZnSe)やシリコン(Si)が頻繁に使用されるが、赤外分光の窓に適した様々な材料、ゲルマニウム(Ge)、臭化タリウム(KRS-5)、ダイヤモンドに加えて、光ファイバーの用途に適したカルコゲナイドガラスや多結晶ハロゲン化銀等も使用することができる。
  種々の選択ができるために、特定のアプリケーションに最も適切なアクセサリーやATR素子を選択することは難しい。ATRを含む様々な装置構成で多数の文献があるが、利用可能なATRアクセサリーを選択するための感度及び信号対雑音比(SNR)を含む絶対性能を比較するという考え方はない。本研究では、いくつかのATR素子を含む四つの異なるATRアクセサリーについて、簡単かつ容易に入手可能なサンプルを使用して評価を行った。
<ATRアクセサリー>
以下の4種のアクセサリーについて評価を行った。
Type1……  1500psiの圧力まで動作可能な液用のアクセサリー。サンプル液は円筒状 
                (82mm×6.4mm)のATR素子(Ge又はZnSe)の周囲を流れ、測定室の体積は
                1.3mLである。赤外光はATR素子の表面を12回反射する。
Type2-1……少量のサンプルボリューム(2~300μL)で測定可能な生物製剤サンプルの
                研究に適した7又は8回反射する400μm厚のSiにコーン状のZnSe結晶がSi
                円板に結合されATR素子となっている。
Type 2-2……Type2-1とよく似た構造を持っているがSiの厚さにより(350μm又は
                   250μm)12または23回の内部反射になる。入射角は30°。ATR素子に
                   ダイヤモンドを使用する場合 (250μm)は45°になる。
                   サンプルボリュームは2~300μLで測定が可能である。
Type 3……台形のZnSe ATR素子を持ち内部反射は10回で、45°の端面で赤外光を
                入射させる。実効的なATR素子の大きさは6cm×1cm。
<サンプル>
溶存炭酸ガス水溶液……脱イオン水に炭酸ガスを飽和(1.7g/L、21℃、1気圧)させ、
1:2,1:3,1:4に希釈させた。
炭酸カリウム水溶液……5g/Lの水溶液を1:2,1:3,1:4に希釈させた。
酢酸ナトリウム水溶液……10g/100mLの水溶液を1:2,1:3,1:4に希釈させた。
<性能評価>
ATRアクセサリーの性能が、感度、SNR、ノイズ(Peak to Peakノイズ比)、効率(感度/ノイズ)で評価された。評価に使用したピークは、溶存CO2は2343cm-1、酢酸は1550及び1413cm-1、炭酸カリウムは1390cm-1である。スペクトルはそれぞれのATRアクセサリーにより大きく異なる結果になっている。また同じ構造のATRアクセサリーでもATR素子の材質によりスペクトルは大きく異なる。
   それぞれの感度を決定するために、ピーク面積に対する濃度の校正関数が求められた。積分領域は CO2: 2347-2333cm-1,酢酸:1570-1505cm-1, 炭酸:1465-1310cm-1である。校正関数から感度(吸光度変化/濃度変化)を得た。感度はATR素子材質だけではなくアクセサリー構造により大きく異なる。又波数領域により感度は大きく異なり、1390cm-1で相対的に感度が悪いものが1550cm-1では感度がよくなる場合もある。
<複数反射と実行浸み込み深さについての考察>
従来のATR 理論では、近似的にn回反射の吸光度は1回反射のn倍になる。しかし実験でATR素子の反射回数を12から23に変えても吸光度は2倍にならない。これを解釈するために2つの仮説をした。
1. スペクトルにおける吸光度の変化は、反射回数よりも光学的スループットに関連する
    ATR素子の位置と品質、全体の調整に依存する。
2.理論的計算は巨視的なスケールで台形のATR素子を考えていて、実際の薄い
    ATR素子を用いたZnSeと結合したシステムに直接適用できない。
<ノイズレベルと効率>
感度のほかにノイズ(Peak to Peak)とSNRが性能を考える上での重要なファクターとなる。ATRアクセサリーのノイズを決定するために、それぞれのアクセサリーで水の2つのシングルビームスペクトルが連続して測定され、吸光度に変換された。SNR(Peak to Peak比)の対象となる波数域は2500-2300 cm-1及び1600-1300cm-1である。ノイズは感度と逆の関係にある結果となった。又ATR素子の材質と反射回数が同じATRアクセサリーではほぼ同じノイズになった。SNRは感度とほぼ同じ傾向となった。感度は反射回数が増すと増加し、ATR素子の厚さが薄くなると減少するので、ATR素子の開口が減少することを考慮すべきだ。そのためATR素子を通すと光は減少し吸光スペクトルのノイズは増加する。これをより深く表すためにそれぞれのATR アクセサリーの効率Ef(平均感度/平均ノイズ)という考え方を導入した。構造がほぼ同じTypeIIのATRアクセサリーで反射回数8,12,23の効率を計算したところATR効率は反射回数ときれいな相関があることが判った。
<結論>
再現がよく、簡単な調合が可能な標準サンプルを使用して 構造が違うATRアクセサリーと異なったATR素子材質の性能の比較とランク付けをするために感度、SNR、新しく導入された効率を調べた。4種のATRアクセサリーといくつかのATR素子材質を比較することによって性能の大きな差が明らかになった。このような研究が広がり、応用分光研究者のためのデータベースができ、個別の測定のため最も適当なアクセサリーの選別を支援するようになることを期待する。













2016年8月12日金曜日


<文献検索から>(21) 四塩化炭素中のメタノール-ピリジンの複合体形成によるメタノールのOH 伸縮振動の基本音と倍音の吸光強度変化と振動数シフト:近赤外及び赤外分光法とDFT計算による解析
題名:Absorption intensity changes and frequency shifts of fundamental and first overtone bands for OH stretching vibration of methanol upon methanol–pyridine complex formation in CCl4: analysis by NIR/IR spectroscopy and DFT calculations.
著者:Y. Futami, Y. Ozaki and Y. Ozaki
出典:Phys.Chem.Chem.Phys.,2016, 18, 5580
 <用語>DFT(Density functional Theory)……密度汎関数理論
【抄録】
倍音、組み合わせモード、非調和性と振動ポテンシャル等の近赤外(NIR)分光法の基礎研究は、スペクトル解析の進歩と量子化学計算の発展により顕著な進展をしている。
倍音は調和振動子近似では禁止され、分子振動の非調和性に起因している。それゆえNIR領域の吸収帯域の振動数や強度は分子内または分子間相互作用のような分子構造(NH–N, OH–O, N(O)H,……π水素結合等)に敏感である。倍音の強度が、振動量子数の増加に伴い指数関数的に減少することは、強度分布の法則として知られている。吸収強度は、振動波動関数と双極子モーメント関数から計算される。OHおよびNHの水素結合の形成は、基本バンドの吸収強度を増加させるが、OH(NH)基に結合した水素の伸縮モードの第一倍音を測定することは非常に困難であることがよく知られている。
我々は、四塩化炭素溶液中のピロール-ピリジン複合体の形成と溶媒の変化に依存するピロールのNH伸縮振動の基本音と第一倍音の吸収強度の変化と振動数シフトを調査するためにNIR/ IR分光法および密度汎関数理論(DFT)計算を使用してきた。振動数シフトを伴う吸収強度の変化の変動は、ピロールとピロール-ピリジン複合体では全く異なっていた。分子間水素結合に関与しているメタノールOH伸縮モードの第一倍音に依存する吸収帯、または水素結合形成前後の第一倍音の吸収強度変化に関する明確な測定と解析についての報告はない。
本研究では、四塩化炭素中のメタノール - ピリジン複合体を形成する際のメタノールのOH基本音と第一倍音伸縮振動の吸収強度変化と振動数シフトを調べた。
ピリジンは、代表的なプロトンアクセプタであり、OH伸縮バンドと重なるピークを持っていいない。ピロール - ピリジン複合体に関する我々の前のNIR/ IRの研究では、水素結合したNH基伸縮の第一倍音に依存する吸収帯を実験的に測定することができなかった。本研究においては、水素供与体および水素受容体の量を調整することにより、実験によるメタノールのOH基伸縮モードの水素結合第一倍音吸収帯を測定することに成功した。メタノール-ピリジン複合体のOH-N水素結合のOH伸縮モードの第一倍音に依存する非常に弱いピークを観察することができた。水素結合の形成は、基本音の吸収強度を19倍増加させ、第一倍音を1/6減少させる。
さらにDFT計算を用いて、メタノールおよびメタノール-ピリジン複合体の最適化構造を推定した後、一次元シュレディンガー方程式に基づきOH伸縮振動のための基本音と第一倍音の吸収強度と振動数を算出した。量子化学計算は、上記の強度変化とよく似た結果を示した。 DFT計算は、振動ポテンシャルと双極子モーメント関数は、水素結合の形成に大きく変化することを示した。振動ポテンシャルにおいて、水素結合により解離エネルギーは減少し、双極子モーメントの傾きは増加する。解離エネルギーの減少は、また非調和性の変化にもみられる。双極子モーメント関数の大きな変化は、基本音と第1倍音帯の吸収強度の変化のための主要な原因である。
この結果は、NIR分光分析の将来のアプリケーションのための基本的な知識となる。


【実験条件及び量子化学計算方法】
サンプル:四塩化炭素中のメタノール0.005~0.5mol/dm-3
使用分光器:FTIR(測定波数域12000~2500cm-1)
分解能:1cm-1、使用セル:矩形石英パス長10mm10mm
量子化学計算ソフト:Gaussian 09 (with the 6-311++G(3df,3pd))