2013年12月15日日曜日

<文献探索から> (6) 近赤外分光法を用いた純粋なエチレングリコールとエチレングリコール溶液の分子構造と水素結合の研究


(題名:Molecular structure and hydrogen bonding in pure liquid ethylene glycol and ethylene glycol –water mixtures studied using NIR spectroscopy)
著者:Yujing Chen, Yukihiro Ozaki and Mirosław A. Czarnecki
出典:Phys. Chem. Chem. Phys (2013)

【抄録】エチレングリコール(EG)と水の混合液は、EGがかなり低濃度でもガラス状であり結氷を防ぐので冷媒として広く使用されている。EGは又分子間と分子内の水素結合の相互作用の研究対象でもある。EG及び水との混合液のスペクトルは2次元相関法とMoving Window2次元相関法とケモメトリックスを使って評価された。EGに水を加え濃度を変えると水の結合音(ν(対称伸縮振動)、ν2 (変角振動)、ν3 (非対称伸縮振動))のピーク位置が変化する。
ν2 とν3の結合音(ν2+ν3)では5149cm-195%EG)⇒5166cm-1(50%EG)5182cm-1(100%)と変化するに対し、ν1 とν3の結合音(ν1+ν3)では、6850cm-1(50%EG)6887cm-1と逆にシフトする。CH伸縮振動の変化は純粋なEGの液体とEG-水混合液の構造がOHグループの分子間水素結合によって決定されていることを示している。水の結合音の解析結果はEG高濃度溶液中の水分子はEG2分子で主に結合されていて、この水素結合はバルク水の結合より強固であることを示した。
さらに異なる有機混合水の結果と比べると極性基の総量と分布が有機相における水の溶解性を決定する重要な要素であると結論付けられた。これらの分布は炭化水素鎖の長さと構造に依存し、EG水溶液中のOHグループの個体数と相対的に均一な分布は液体EGの溶解性に影響する。

注)
1) EGは、2価アルコールの一種で分子式はC2H6O2IUPAC命名法では エタン-1,2-ジ オール、あるいは 1,2-エタンジオール
2) IUPAC(アイユーパック):
International Union of Pure and Applied Chemistry, 化学者の国際学術機関

<展示会見て歩記>(9);第29回近赤外フォーラム

【展示会概要】
近赤外線領域(波数:12000cm-14000cm-1(波長0.8~2.5μm)の分光法に関する国内最大の研究討論会、参加人数約250人、口頭発表16件、ポスター発表36件、協賛/展示企業23社であった。展示発表された分光分析計の傾向としては、小型、ポータブル、イメージといったところかと思う。技術的にはMEMS (Micro Electro Mechanical Systems)を使用した微細な光学素子あるいは機械エレメントが実現出来てきて分光システムに適用されたことが大きい。発表された内容もそれら分析計の応用に関するものがあり、手袋に分光計を搭載しイチゴを持つと糖度がわかるような機器とか聴診器を少し大きくしたような分光計の展示もあった。
 このような中でアフリカでサーバル(野生の大型猫?)の雌雄判別を小型のポータブル近赤外分析計を用いて行った例を少し紹介する。サーバルの糞のスペクトルから雌雄の判別をするのだが、糞そのものを持ち帰って分析するの大変で時間もかかるがスペクトルは小型ポータブルの分光分析計があれば現場で簡単に取り解析することが出来る。今回は糞のDNA解析とスペクトルから雌雄判別の可能性を調査した結果、スペクトルからの雌雄判別は可能であるとの結論であった。
 MEMS応用という技術orientedの製品にみえるが、小型/ポータブルの分光計が新しい市場/可能性を生み出すのは確かのように感じた。

2013年11月15日金曜日

<文献探索から> (6) 窒素とエチレンリッチの流路中の塩酸、二酸化炭素、水分のFT-IRによるオンライン連続分光分析


(題名:Continuous Online Fourier Transform Infrared(FT-IR) Spectrometry Analysis of Hydrogen Chloride (HCL), Carbon Dioxide (CO2), and Water (H2O) in Nitrogen-Rich and Ethylene-Rich Streams)
 著者:Serena Stephensen, Maria Pollard, and Kipchirchir Boit
 出典:Applied Spectroscopy No9, Vol. 67 (2013)
【抄録】
光分析技術が化学/石油化学工業において状態変化を連続的に監視できる能力があることは既に証明され、連続プロセスに応用されるOn-lineの分光分析技術例はこの2, 30
年で急激に増えている。製造プラントではしばしば製品の構成やバラツキを抑えることが出来ないで、何がプラントで起こっているかを知る必要がある。この現象を完全に理解しないで対策をすると時間のロスや品質の低下につながる。フーリエ変換赤外分光分析計(FTIR)を使用する分光分析技術は、プラントで起こる事象を正確に理解するためのキー技術である。従来、ガス検知管が使用されてきた。しかし価格は安いが連続測定不可で再現性が低く多成分測定が出来ないという欠点があった。この論文では窒素ガスとエチレンガスを主成分とする工程でのppmレベルの塩酸、炭酸ガス、水分の連続測定について述べている。
エチレンは赤外に強い吸収があり、HCl,CO2,H2Oを定量測定するための新しい手法を開発する必要がある。FTIRと約5mのガスセルを用いて、波数範囲18005000cm-11cm-1の分解能で測定した。エチレンリッチ、窒素リッチそれぞれの流路での予測測定能力は以下:

      窒素リッチ流路      エチレンリッチ流路      
 CO2     ±0.5ppm           ±0.5ppm
 H2O     ±1.1ppm           ±1.3ppm 
 HCl     ±1.0ppm           ±2.4ppm 

定量分析に用いられる検量線は、CLS(Classical Least Square)
で作成された。On-line監視技術は、プロセスの精密な制御と安全監視のために有効である。

 
【読後感】
分光分析機器が実際に私企業の工業用プロセスに使用された例が論文等で出ることは少ない。企業秘密が多い(?)ためか、その利用方法、具体的なシステム構成等が書かれている例は少ない。この論文には具体的システム構成、3日間、4日間の連続測定例が示されている。

2013年10月30日水曜日

<展示会見て歩記>(7);アグリビジネス創出フェア


アグリビジネス創出フェア
2013年10月25日 (10/2310/25 開催) 場所: 東京ビックサイト

【展示会概要】
産学の各機関が農林水産食品分野に関する最新の技術を持ち寄り交流することを通じ、新たなビジネスを創造するための技術交流・展示会(主催者の林農林大臣挨拶より)であるアグリビジネス創出フェアに行ってきた。併設展示にアグロイノベーション2013(農業園芸生産技術展、青果物流通加工技術展の合同展示)があった。農業・食品にはかなり多くの分光分析機器(例えば、果物、砂糖きびの糖度測定、お米の食味等)が使用され、農産物、食品のスペクトルが測定されているので、このような展示会で何か新しい応用、発表はないか?というのが参加の動機だ。
アグリビジネス創出は大学、国公立研究機関、企業、NPO法人等170の出展、。一方アグロイノベーションは約100社の展示でやや規模が小さい。研究機関の展示が多いのはアグリビジネス創出だが、スペクトルの測定事例はそれほど多くない。品種改良のためのDNA解析、操作の研究、人工栽培のためのLED照明とその効果・効率upといった研究が多い。その中でも近赤外線スペクトルによって土壌・堆肥の成分分析を行う装置、レタス・ホウレンソウの葉っぱのスペクトル<可視(0.4μm)から近赤外域(1.1μm)>を測定しケモメトリックス(多変量解析の1種、スペクトルの解析、定量分析のために頻繁に使用される。)結果から野菜中の硝酸濃度を測定する発表があった。又直接スペクトルの測定は行っていないが、メタボローム解析にケモメトリックスが使用された例も見られ、スペクトル以外の大量のデータ解析にケモメトリックスが有効であることが認識されて来たようだ。

2013年10月14日月曜日

<スペクトルあれこれ>(4) 10月2日の虹


102日の夕方、空にきれいな虹が見えた。良く見ると2つの虹が見える。はっきりと見えたのは下側の虹で、
上側の虹はうっすらとしている。2つ見えたのはわずかな時間で、私が見た10分後くらいには、一つしか見えなかったようだ。虹が雨滴の屈折率の差により太陽光が分光されたスペクトルだという話は、前に掲載した。
しかし今回2つの虹が見えた(下の虹を主虹、上の虹を副虹と呼ぶらしい)。もっと良く見ると下の虹では、下から紫⇒青⇒緑⇒赤の順に並んでいるのに、上の虹では順序が逆(赤⇒緑⇒青⇒紫)になっている。赤はともかく紫が本当に出ているかは少し疑わしいけれど教科書的にはこの順序だ。
この日の虹の写真は幾つかのWebに掲載されているので、見てみるといいと思う。

何故二つの虹が出来、順序が逆転するのだろう?数ヶ月前にたまたま読んだ本に、このことが記載されているのを思い出し披露することにした。
Ar4-2に、雨滴内で反射する回数が1回と2回の光線が示されている。雨滴中で2回反射した光線から出来る虹が副虹、1回反射の光線で出来る虹が主虹だ。副虹が弱いのは水滴中を通る光路が主虹に比べ長く光の減衰が大きいからだろう。古くから虹の研究はされていて、デカルト、ニュートン等も主虹、副虹の構成について研究しているそうだ。ともあれ台風が過ぎ去った空に出た虹は、なんとなく心を落ち着かせ、気持ちをおおらかにさせてくれた。
(虹の話と図は光の百科事典 谷田貝豊彦編丸善出版を参考にした。)










2013年9月28日土曜日

<文献探索から> (5)迅速バイオマス分析における近赤外スペクトルデータの前処理 


(題名:Pretreatment of near infrared spectra data in fast biomass analysis)

 著者:l. Liu, X. P. Ye, A. M. Saxton, and A. Womac
 出典:J.Near Infrared Spectrsc 18, 317-331 (2010)
【抄録】
植物の木質部は隠れた新エネルギー源。バイオマス工業はバイオマス原料を効率的にバイオ燃料等に変換しなければならないので、バイオマス原料中の化学成分を迅速に分析することは重要な課題。近赤外分光分析は、バイオマス原料の成分分析に適している。バイオマス原料のスペクトルから成分情報を取りだすために有効なスペクトルの前処理方法を検討した。異物、サンプル粒径、かさ密度、水分含量の影響等によるスペクトルのバラツキの影響を抑えるために前処理を行うことは、スペクトルデータと化学成分の良い相関を取るために重要である。サンプルはスイッチンググラス(イネ科の雑草)36種類とCorn Stover(トウモロコシの茎など)35種類(いずれも粉で粒径、採取場所等が異なる)。
前処理として、1次微分、2次微分、MSCSNVEMSCをそれぞれのスペクトルデータに施しグルカン、キシラン、リグニン、灰分の検量線を作成し、検量線作成用とは異なるスペクトルデータにあてはめ予測値を得て、前処理の効果を調べた。最も効果的だったのは、EMSCであった。灰分などの無機質によるスペクトルの影響をEMSCが有効に取り除けたため。
測定対象:
グルカン……天然に最も多く存在する多糖類(Dグルコースを基にしたポリマー)
キシラン……分子式(C5H8O4)n の炭水化物(多糖類)
リグニン……高分子のフェノール性化合物(木質素)
前処理方法:
MSC……Multiplicative scattering correction(多重散乱補正)
SNV……Standard Normal Variate標準正規変数)
EMSC……Extended Multiplicative scattering correction (拡張多重散乱補正)

 

2013年9月27日金曜日

<展示会見て歩記>(6);JASIS(2013) (旧分析展/科学機器展)


9/5, 6開催日9/49/6幕張メッセ国際展示場
【展示会概要】

分析機器・科学機器におけるアジア最大級の展示会であるJASIS2013に参加した。参加者は3日間合計で2300名であり、昨年よりわずかに減ったが盛況であった。併催の新技術説明会の光分析の発表件数(オフィシャルガイドによる)をみるとラマン(含む蛍光)15件、赤外・近赤外9件、紫外可視8件、原子吸光5件、ICP関連3件、その他3件となっている。分光分析に関する展示も、新技術説明会の発表件数分布に比例するような形で、ラマンの展示が目立った。ピッツコン等ではすでにあるが、Heritage Corner(分析機器・科学機器遺産コーナー)があり、分析機器発展の歴史が判るのも興味深い。この展示会は大学、研究所等の小間、発表が多いのも特徴の一つ。化学、医薬業界を対象にした展示が多く、これらの業界が分析計の大きな市場であると推測できる。全体に小型化した新製品が多く、NMRFTIR, Raman等に小型、ポータブルを特徴とした製品が見られた。

2013年9月3日火曜日

<文献探索から> (4) 自作Webカメラを使用したNチャンネル光ファイバー使用分光器


原題:Home-made N-Channel Fiber-Optic Spectrometer from a Web Camera
出典: Applied Spectroscopy Vol. 66 No.10, 1156
著者:S. Sumriddetchkajorn, and Y. Intaravanne
抄録:
中小企業の教育用、あるいは品質管理用としてWebカメラを使用した低価格、多チャンネルの光ファイバ分光器の可能性を紹介する。キーアイディアはN本の光ファイバーを1列に並べ外部の分散型素子へ入射させて、スペクトル情報を2次元にしたことにある。市販のWebカメラのイメージセンサにプラスチックレンズを通して各チャネルのスペクトル情報を結像させた。この論文では5本の光ファイバーを使用して5チャンネルの分光器を構成しそれぞれのチャネルを標準光で校正した。製作した分光器は455~655nmで動作し、LEDとレーザポインターでピーク波長を調べたところ10.5nm以下の測定誤差で測定可能であった。製作にかかったコストはWebカメラと光ファイバを含め 92.5$だった。分散型エレメントはRainbow SymphonyHolographic Grating (1000/mm,18mm×8mm1.13$。

読後感】
手作りの分光器については、いくつもの作成方法がWeb上に出ている。ほとんどのものが、CCDと回折格子(CDを使ったり、市販のホログラフィックグレーティング)の組み合わせだ。出力はデジカメ(携帯カメラ)の場合が多い。しかし、正論文として投稿発表されたものは少ないと思ったので、どこにポイントがあるのかと疑問に思い読んでみた。基本のアイディアは、複数本の光ファイバをうまく設置して2次元のスペクトル画像をCCD面に結像させたことだと思う。Webカメラを使用したことによりPCへのデータ取り込みが出来るのは便利。校正には6個のLED(Peak波長:465, 507, 568, 591, 629, 639nm)2(532, 655nm)のレーザポインターを使用している。校正の方法もしっかりしているし、出力がデジタルで出てくるのも便利。論文になるのも納得。プラスチックレンズとプラスチックファイバー(コア径1mm)を使用しているため波長範囲が最長655nmになっているが、この部分を変えれば1100nmぐらいまで波長範囲が伸びるのではと思う。当然価格は大幅にアップする。
価格重視の珍しい論文。

<展示会見て歩記>(5);ICAVS-7


2013828日(8/268/30開催) 場所:神戸国際会議場
【展示会概要】
ICAVS-77回国際先進振動分光学会議(Seventh International Conference on Advanced Vibrational Spectroscopy)の略でOral, Posterの発表が500を超える大きなカンファレンスで、それに付随して分光分析機器関連各社の展示も行われたので紹介することにした。展示会社は約30社で、先進振動分光学会議にふさわしい先端的な展示が多かったが、やはり一番目につくのはラマン分光器。低周波(テラヘルツ)ラマン、イメージング、AFM(原子間力顕微鏡)-Raman、ラマン円偏光等各社特長のある製品を展示した。次にFTIRでこれは従来からある高級品のFTIR が多かったが、AFM-FTIR、小型(ポータブル)FTIRの展示などもあった。近赤外分光器も各社展示していたが、特に目立った機器はなかったように思う。テラヘルツ分光器は製品を持っているメーカーが少なく、数社が展示をしていた。
ラマン、FTIRに共通しているのは、空間分解能を高めることと面情報を取るという相反する要求に対応している点にある。一方はAFMを使用して光の回折限界(波長長さ)を超えて、空間分解能を飛躍的に高め(数10nm)、微小部分からの分光分析による新しい情報を得ることが出来、他方はイメージングでは、高速で2次元データを処理し面情報(数mm×数mm?)を得ることが出来る。

2013年8月5日月曜日

<スペクトルあれこれ>(3) 分光スペクトル(透過率と吸光度)


サンプルに入射/透過した光量は、透過率で表すと理解しやすい。物質に光が入射した時、入射した光全部が透過したとすると物質は透明になるが、100%の光が透過することは実際にはほとんどなく、透明に見えるガラスでも、ガラス面に入射した光は約4%(ガラスの屈折率を1.5、空気の屈折率1とすると)が反射(フレネル損)する。この場合透過率は96%になる。しかし多くの場合、透過率より吸光度でスペクトルを示すことが多い。これは図Ar3-1に示すランバート・ベールの法則によるところが多い。サンプル特有のモル吸光度係数とサンプルの厚さが既知とするとスペクトルの吸光度からサンプルの濃度が推定できるからだ。
                           

Ar3-2にポリスチレン板の赤外域波数と透過率の例を示す。
ポリスチレンは赤外域に幾つかの強い特徴的な吸収を持ち幾つかのピークは、波数(波長)の基準にも用いられている。理科年表には幾つかの物質の吸収波数(波長)が記載されていて、ポリスチレンも3026cm-1、2925cm-12849cm-1等基準になる吸収波数が記載されている。、それぞれの吸収ピークは、化学構造と対応し、2925, 2849cm-1は ”-CH2-”、3026m-1は”ベンゼン環とCH”に依存している(図Ar3-3)。
 
 

2013年8月4日日曜日

<文献探索から> (3) 2-オキサゾリンポリマーの吸水:温度依存フーリエ変換赤外 (FTIR) 分光法と2次元相関解析 (2DCOS)


原題:Water Uptake of Poly(2-N-Alkyl-2-Oxazoline)s: Temperature-Dependent Fourier    Transform Infrared (FT-IR) Spectroscopy and Two-Dimensional Correlation Analysis (2DCOS)
出典: Applied Spectroscopy Vol. 66 No.10, 2012
著者:E. F.-J. Rettler, M. V. Vnger, R. Hoogenboom, H. W. Siesler, U. S. Schubert
抄録:
アルキル側鎖の長さを変えたポリ(2-オキサゾリン)の温度を変化させて水素結合と結晶化のメカニズムを調べるために、一般化2次元相関分光法(2DCOS)と摂動相関Moving-Window2次元相関法 (PCMW2D)を用いた。1645cm-1付近のCO伸縮振動領域を2DCOSPCMW2Dでモニターしたところ、加熱途中での物質の挙動解釈に有用な情報が得られた。サンプルから水が解離する際に、ゆるく吸着した水と水素結合水を明瞭に区別することが出来た。又側鎖にイソプロキル基を持つ2-オキサゾリンでは、結晶化プロセスでガラス転移点と融点の間でモニターすることが出来た。加熱途中のサンプルの挙動モニタには熱量計測装置(TGA)が使用された。

2-オキサゾリン:オキサゾリン(oxazoline)は化学式C3H5NOを持つ5員環複素環式化合 物。ポリ(2 ーアルキル-2-オキサゾリン)はアルキル基の種類を変化させることにより、多様な機能性高分子の合成が可能で、活発な研究がなされている。

2DCOS:スペクトルの吸収帯間の強度相関を相関関数を用いて解析する手法で、温度変化、化学反応、圧力変化等多様な変化(摂動)に対応できる。

PCMW2D2DCOSを発展させた手法で、2DCOSでは見ることの出来ないスペクトルの変化と摂動の変化の相関を見ることが出来る。

注)2DCOS, PCMW2Dの詳細については、下記参照ください。
 << http://science.kwansei.ac.jp/~ozaki/NIR2DCorl.html>>

2013年7月28日日曜日

<展示会見て歩記>(4);インターフェックスジャパン


<展示会見て歩記>(4);インターフェックスジャパン
2013711日(7/107/12開催) 場所:東京ビックサイト

【展示会概要】
26回インターフェックスジャパンと第7回医薬品国際展インファーマジャパンの併設。会場で配られた出展社一覧ではインターフェックスジャパンが812社、インファーマジャパンが90社出展。展示会の中日にもかかわらず盛況だった。分析計に関しては一時期はやったPAT(Process Analytical Technology)QbD(Quality by Design)を前面に出す企業は少なく、今年3月に厚生省が加盟申請を出したPIC/S医薬品査察協定および医薬品査察協同スキーム)に関心があるようだ。PATに注力していたのは、㈱新大倉でAOTFの近赤外分光器を用いたブレンダー、流動層コーティング等の応用例を紹介していたが、ここでも原材料受入は、PIC/S対応を強調していた。ケモメトリックスソフトのCAMO社は新大倉と共同で展示を行っていたが、PAT, QbDの事例としてMSPC (Multivariate Statistical Process Control)の例をあげていた。日本MKSPATQbDのアプローチ事例としてUmetricsのソフトを使用した例等を展示していたが、分析計よりアルゴリズムとSoftセンサーに重きを置いているように見える。分光分析機器では日本分光が小型のNMROxford Instrument社のOEM)を展示していた。大手の製剤機器メーカ(パウレック社等)も特にPAT. QbDに注力しているようには見えなかった。レーザー回折粒度計が複数社で展示され根強いニーズがあると推測できる。全体的な流れからいえばもう一つはバイオファーマで、例えばメトラートレドは小型のバイオリアクタ―とそのモニターシステムを展示、RocheBioprocess Analyzerを展示していた。医薬品の製造(特に原材料)に対し適切な品質保証システム等を要求するPIC/Sは、PATQbDの前段階の規制とも思え、何れPATQbDの考え方は復活するように思えるのだが。

2013年6月29日土曜日

<文献探索から> (2)  線形分光法と複素光学パラメーター

(題名:線形分光法と複素光学パラメーター 出典: ぶんせき2013 6 p322-330

抄録:
     分光分析をよく理解するためには電磁気学的な考察が欠かせない。分光分析の基礎式として知られているランベルトベールの法則(L-B則)は光と境界面の関係を無視した理想的な式である。このようなことは教科書では全く書かれていない。電磁気学からの解析(マックスウエル方程式)では、非金属の屈折率は誘電率のルートになる。さらに解析を進めるとマックスウエル(Maxwell)方程式からL-B則が導きだせる。Maxwell方程式からL-B則を導き出すことにより、L-B則はセルも空気もない溶液試料のみの世界を光が直進することを想定して得られた結論であることが明らかになる。バルクのスペクトルと界面の影響を受けやすい薄膜のスペクトルを比較する場合は注意を要する。ATR (Attenuated Total Reflection) を使用したスペクトルは界面の影響を受けやすくバルクのスペクトルと異なる。この問題を正確に理解するためには、屈折率(誘電率も)を複素数で考える必要がある。
     光と物質の相互作用は光の電場が引き起こす誘電体の分極と考えてよい。電場によって分極が引き起こす現象は、パルス状の電場を印加した時に現れる分極の現象とし、線形システムの畳み込み積分で解析を行った。複素誘電率の解析から、電場と磁場の位相ずれがない振動であれば光の吸収は起こらない、すなわち光のエネルギーが分子振動のエネルギーに一致すれば吸収が起こるわけではなく分極が位相ずれを起こす時が吸収を起こす時であることが分かる。複素誘電率検討の際に導入されたクラマース・クローニッヒ(KK)の関係式を使えば、垂直入射の正反射スペクトルから複素屈折率を得ることができる。 電磁気学に基づくスペクトル解析を行うと高い精度で光学定数が得られ、詳しい化学情報が読み出せる。

読後感:
      化学(吸光分光法)と物理(電磁気学)の橋渡しをするような解説で電磁気学の基本式(Maxwellの方程式)と分光学の基礎式(L-B則)の関係を明らかにしている。物理学を専攻する学生はMaxwellの方程式から屈折率(誘電率)を導くことを習うが、ランベルトベールとの関係までは習わない(40年前の学生だからかもしれないが)。化学専攻で吸光分光法を勉強する学生は、L-B則を基礎にして勉強するが、L-B則の背後にある電磁気学的な理論には気がつかない。筆者の京大長谷川教授は、この化学的、物理的観点のギャップに焦点を当てて、電磁気学的観点からスペクトル解析を行うと今まで以上に豊富な情報が得られることを指摘している。数式をすべて理解できているわけではないが、色々なSuggestionを含む解説と思う。


抄録で使用した専門用語について以下に説明する。 

ランベルトベールの法則(L-B則):
試料に入射する光強度 ‥‥ Ii 、 試料を透過して出てきた光強度 ‥‥ Io、試料の濃度 ‥‥ c  、試料の厚さ ‥‥ l 、試料特有の吸光系数 ‥‥ ε    とすると下記関係がある。
         log(Io/Ii)=-ε×c×l
上記式をランベルトベールの法則という。Io/Iiは透過率を表す。

ATR (Attenuated Total Reflection): 全反射吸収測定法.。試料を屈折率の大きい全反射素子に密着させ、試料と素子間で全反射が起きるように設定する。 全反射が生じるとき、界面で光は試料側に少しだけもぐりこんで反射されてくる。試料に吸収のある領域では、吸収の強さに応じて反射光のエネルギーが減少する。この反射光を測定することによりスペクトルを得る。試料にもぐりこむ深さは、23波長程度(素子と試料の屈折率差で異なる)なので、試料薄膜のスペクトルが得られる。
Maxwellの方程式:   Maxwellによって示された電場、磁束密度、磁場、電束密度を電荷密度、電流密度と関連付ける4つの式。詳しくは電磁気の教科書を参照ください。この解説では、対象物を非金属(誘電体)に限っているので、磁気的な性質をあらわす透磁率が無視されている点に注意。一般的には屈折率は誘電率と透磁率の関数。
複素屈折率、光学定数、複素誘電率: 解説中にもあるように、物質が透明でない場合屈折率は、複素屈折率(n+ik)であらわされる。iは虚数を示す。完全な透明体ではk=0。このn, kを物質の光学定数とよぶ。屈折率と誘電率は密接な関係があり、誘電率も複素数であらわされる。3種の言葉を説明なしで使い分けている。

クラマース・クローニッヒ(KK)の関係式:   分光正反射率から光学定数を求める式。昔から知られている式だが、この解説では誘電体の光に対する応答関数から導入している。波長範囲が-∞から∞までの反射率データを使用するので、実測の反射率を使用して計算する場合に仮定が必要になる。この解説ではその点については触れていない。