2019年5月2日木曜日


     <文献検索から>(30)プロセスアナリティカルテクノロジー(PAT
                                    :ケモメトリックスの視点から
    題名:Process analytical technology: a critical view of the chemometrics
    著者:A. L. Pomerantsev, and O. Y. Rodionova
      出典:Journal of Chemometrics 2012,26,299-310
        【用語】:APIActive Pharmaceutical Ingredients: 医薬品有効成分(原薬)
             フェドバッチ流加培養

Process analytical technology(PAT)2004年にFood and Drug Administration (FDA)がガイダンスを発表して以来一般的なものになってきている。 PATは医薬品の製造工程あるいは原材料において重要品質特性、性能特性などをタイムリーに測定することにより医薬品の設計、分析、製造工程制御するためのシステムである。PATには狭義のPAT と広義のPATがある。狭義のPATは医薬品業界のみに適用され、その手法はFDAによって定義されている。広義のPATは医薬品製造に限定されない。PATは、バイオ技術、食品業界などすべての製造工程に適用される。この論文では広義のPATを対象とする。このレビューを書くにあたって19932012年のPATに関する690論文について調査を行った。このうちの245論文がケモメトリックスとPATについて書かれていて、このレビューの対象になった。このレビューは大きく4つのセクションに分かれる。最初のセクションでは、3つの主要PAT対象業種について述べ、次にケモメトリックス応用が必要になったPAT solutionを主に述べる。次のセクションではPAT Solution用の機器について概観する。最後にPAT Solutionに適用可能あるいは専用に開発された数学的/ケモメトリックス的なメソッドについて紹介する。

PAT対象業種>
医薬品業界:USA又はEUの規制実現のためPATアプリケーションの70%は医薬品業界で開発されている。約25%は医薬品原薬(API)の同定、定量を目的とし、また混合、ブレンド、異なるプロセス条件での均一性の予測モデルなどの検討を行っている。最終製品の純度、物理的、化学的、生物学的性質はしばしば結晶状態によって影響を受け、重要な製造工程としてPATに関するいくつかの報告がある。オンラインプロセス制御は、原材料の同定、ブレンドの均一性、カプセルの内容物均一性等を目的として実施されている。
バイオテクノロジーAPI製造用のバイオプロセスにおいて、PATの手法(PATtool)はプロセスをモニターし、プロセスの理解(Process Understanding)を大きく発展させる。抗生物質発酵の最終力価を予測する可能性があることを、異なったタイプのプロセスで示した文献がある。PATを使用したアプローチは医薬品関連からかけ離れたバイオテクノロジーにも使われている。ほとんどの事例が、ラボ分析かパイロットプラントへの適用だが、中規模のバイオガス発酵プラントに使用された例もある。

食品と飼料:食品産業において、PATアプローチは最終製品の品質改善の手法として工程に組み込まれている。糸状菌のフェドバッチ培養のモニターは医薬品と食品工業双方で使用されている。蛍光分光とケモメトリクスの組み合わせが砂糖製造工程のプロセスモニターとして最適という報告もある。
PATの使用状況>
調査対象文献を、フィージビリティ、品質設計、製造工程前検査、工程内検査、後工程に分けて分析した。論文の半分はフィージビリティである。理由は簡単でラボの実験は実施が簡単で結果の公表もできる。対して製造工程は技術情報の開示を避けるために必ずしも公表は歓迎されない。多くの興味深いPAT事例があると推測するがそれらを知ることはできない。
フィージビリティ3つのカテゴリーに分けることが出来る。第1は特定の工程の定量性やモニターの可能性検討である。トウモロコシサイレージのバイオガスのモニター手段としてNIRと超音波のケモメトリックス技術が調査された例がある。2番目の文献は、実際の製造条件で温度、圧力、流体の脈動等の変化の影響を観測する。この例として近赤外スペクトルによるモデルの温度変化の影響とNMRデータを解析した文献がある。3番目は信頼性の高い検量線開発に関するものだ。系統的予測誤差を補正する方法が提案されている。この方法は分光器又は測定条件が変化した場合の検量線の予測能力の保全を目的としている。
Quality by DesignQbD:品質設計):通常 QbDは実験計画(Design of Experiment)、設計範囲(Design Space)開発、表面分析のセットであり、工程(プロセス)変化の原因を明らかにする手段である。QbDアプローチとして薬品濃度の大きな変化(15%-85w/w)と圧力変化(100-500MPa)をもつ検量線開発の研究がある。QbDと多変量データ解析は相補的な関係にあり、片方だけでは目標に達しない。

前工程:原材料の品質管理はPATの基本部分である。ポリエチレン袋越しに光ファイバープローブのついた近赤外装置(NIR)を用いて受入検査を行った例がある。プロセス工程内を流れる粉サンプルを光ファイバープローブ付きNIRで測定した例もある。食品工業では材料保存中の品質変化に適用した例がある。
工程内(In process:ラボスケール(テスト用の小さなプラントも含む)で設計されたPATソリューソンをフルスケールプロセスに展開するには様々な困難がある。ラボに比較して製造条件が限定され、ラボ条件から大きく逸脱したりしているためだ。プロダクトエンジニアの役割は非常に重要になる。低メトキシル化アミデート(エトミデート:静脈麻酔薬)製造のためのアンモニア自動投与のためのOn-lineモニターと制御システムの開発の文献がある。ここではラボスケールからフルスケールプラントまでの展開が述べられており、特に実時間製造の非理想的な条件における調整が議論されている。
後工程リアルタイムリリース(RTR)とは製品試験結果に変えて工程試験結果をもとに出荷判断することで、例えば時間のかかる最終試験を工程内で行われるペレットコーティング厚さのモニターに置き換えることができる。しかしRTRは品質管理の工程には置き換わらない。品質管理の目的は詳細に整品の性質を調べることではなく、すべてのバッチで満足する性質の製品であることを確認することだ。いろいろなレベル高い信頼性をもって予測がされているにもかかわらずプロセスのオペレーターは滴定のためのサンプルを取得しなければならない。
<測定器>
PATに使用される測定器はReal-Timeでプロセスの状態を反映しなければならない。色々な機器が検討されているが主流は分光分析機器だ。
NIR(近赤外分光):NIRPATアプリケーションの中で最も使用されている分光分析機器で約63%を占める。
Raman分光Raman分光はその応用が注目されている。分光分析のアプリケーションとしては約13%を占める。NIRと似ていて、サンプルの前処理が不要で光ファイバーを使用することもできる。Raman分光の無機物質の選択性、結晶多形測定可能、水分への低感度といった性質は、in-line, on-lineのプロセスモニターとして適した分光法であることを示している。
Mid IR(中赤外):中赤外はラボでは広く使用されてきた技術だが、PATアプリケーションとしては10%程度。工業的なアプリケーションには二つの障害がある。一つは25004000cm-1の強い水の吸収、もうひとつは良い光ファイバーがないことだ。最もよく利用されているのはATR-FTIRのアプリケーションで、代表的な医薬応用として晶析がある。
その他:蛍光分析、HPLCX線回折、ハイパースペクトルイメージング、超音波測定、TeraHertzなどがある。<Toolsここでは多変量解析とデータ収集のToolについて述べる。PAT SolutionToolとしてPLSPCA/SIMCAMIA, MSPC, MCRなどがあり、対象文献の比率は以下となっている。
PLS……41%PCA/SIMCA……24%MIA……8%MSPC……6%MCR……3%
その他(前処置、サンプリング装置、反応モニター等)……18%となっている。
PLS:一般的なPLSを使用したPATアプリケーションについてはここでは言及しない。興味ある研究としてNIRRamanを組み合わせ解析する又は異なる工程を解析した例がある。LS-PLSLeast Square-PLS)が、魚の餌の製造プロセス最適化に適用された例がある。NIRMIRを組み合わせ、その能力を調べた研究もある。
PCASIMCAPCAはケモメトリックスの初期に提案されたが、いまだによく使用されている。PCAを強化した形のSIMCAMSPCなどによく利用されている。興味あるアプリケーションとしてこの手法がラマン分光を利用して粉の混合プロセスにおける混合終点とプロセス理解のために使用された例がある。
MIA (Multivariate Image Analysis)現在は画像モニターなどの補助的なToolとして使用されてきているが、だんだんと一般的になってきている。MIAは例えば完成医薬品のAPI同定の信頼性のある高速の方法として後工程で良く使用されている。他の応用としては偽薬の同定がある。
MSPCMultivariate Statistical Process control):MSPCは、間違いなくPATtoolになっている。MSPCのコンセプトは線形モデル構築のために重要な項目に関する過去のデータを適用することにある。2番目のコンセプトは統計的な制御状態をプロセスに残すことにある。MSPCPAT Toolではむしろ種々のケモメトリックスを適用するコンセプトといえる。従来のMSPCは事後の最適化検討の手法として検討されてきたが、現在はインラインプロセス最適化の検討に拡張されてきている。
結論 PATのコンセプトは、医薬品のみならず広く製造工程によって広く使用される。PATは開発と実施の段階において継続的な改善が必要である。PATの恩恵はこのアプローチの柔軟性からくる付加的な自由度にある。プロセスの実際のインラインモニターでは、最終製品の設計品質に関する最適なプロセス状態を保持するためにリアルタイムで技術者が調整できる可能性がある。    以上                               




































2018年9月26日水曜日

<文献検索から>(29) サポートベクターマシンを用いたマイクロ近赤外分光計と教師ありパターン認識を用いた医薬品原材料判別



題名:Pharmaceutical Raw Material Identification Using Miniature Near-Infrared (MicroNIR) Spectroscopy and Supervised Pattern Recognition Using Support Vector Machine
著者:Lan Sun, Chang Hsiung, Christopher G. Pederson, Peng Zou, Valton Smith, Marc von Gunten, and Nada A. O’Brien
出典:Applied Spectroscopy 2016, Vol. 70(5) 816–825



医薬品原材料の識別Raw Material Identification: RMIDまたは包装ラベルの確認は、製薬業界で一般的な品質管理の方法である。 従来、製薬RMIDは、クロマトグラフィー、湿式化学、および滴定などの実験室ベースの分析技術で行ってきた。 これらの技術のほとんどは破壊的で、作業時間がかかり、膨大な数の分析を扱うことは難しい。近赤外NIR、中赤外MIR、およびラマンRaman分光法を含む振動分光法は、非破壊、少量のサンプルで、 高速データ収集が可能である。 ポータブルNIRMid-IRRaman分光器の進歩により、大量のサンプルのオンサイトおよびIn-situ分析が原材料識別に実用化されている。
   中赤外分光法は、中赤外分光領域で強い吸収係数があるため、サンプルの厚さが制限され、場合によっては、Kbr等の赤外透明材料を使用して試料を希釈する必要がある。そのためNIRよりもRMID用としてはあまり一般的ではない。NIRRamanは、医薬品分析に広い範囲で適用可能だが、それぞれメリットとデメリットがある。Raman分光法はスペクトルピークが明確で優れた選択性を持ち、一般的な容器材料内のサンプルを簡単に非接触で測定できる。しかし、サンプルからの蛍光が測定に影響する場合があり、高エネルギーレーザー出力は、サンプルを変質させることがある。逆に、NIRは蛍光の問題が無く、プラスチックまたはガラスの容器を通して測定することもできる。 一方NIRは、スペクトルがブロードでピークが重なり合っているために、多変量データ解析を必要とする。過去10年間で、計算能力とアルゴリズムは大幅に改善され、NIRはより強力で使いやすいものになったので、ここでは分析ツールとしてNIRを選択した。
   判別分析の研究では主成分分析PCA、線形判別分析LDASIMCAPLS-DA等多くの方法が用いられ良好な結果が報告されている。しかし、幾つかの課題が残っている。その一つはモデルの移植性、つまりマスター機器から何台かのターゲット機器に多変量解析モデルを移植することである。もう一つの課題は、RMIDでは対象となるAPIや賦形剤が多岐にわたっているために、数百の判別をしなければならないということである。
   この研究では、小型のポータブルNIR分光器を用いてモデル移植性と大規模サンプルの課題を検討した。2種類のサンプルが用意された。一つのサンプルセットは、アセトアミノフェン、アスコルビン酸、タルク、2酸化チタン等19種類のAPIActive Pharmaceutical Ingredient)と賦形剤からなり、それぞれのサンプルは、2,3種類のグレードあるいは物理的性質の異なるものを含む。このサンプルは、A, B, C三つのサンプルセットに分けられ、モデル移植性の検討のために使用された。 もう一方のサンプルセットは、製薬メーカーから提供された一般的に使用される253サンプルでAPIと賦形剤から構成されている。 このサンプルでは大規模サンプルの分類方法について検討した。
    判別アルゴリズムとしてはSIMCA, (Soft Independent Modeling of Class Analogy),
PLS-DA(Partial Least Square Discrimination analysis), LDA (Linear Discriminant Analysis), QDA (quadratic discriminant analysis)を比較した。19種類のサンプルを含む第1のサンプルセットセットでAをトレーニングセットとしてモデルを作成しB,Cをテストセットとした。6台の小型NIR分光器を使用し、1台で作成したモデルを他の分光器に移植して計30回の評価を行いモデルの移植性を調べた。SVMの予測成功率96.43%で他のモデルに比較して高い結果が得られた。
   大規模な分類に対するケモメトリックモデルの能力を調査するために、253種類の医薬化合物のサンプルセットを使用した。このサンプルセットでは主な違いは化学構造だが、一部では材料の粒子サイズ、製剤の差(コーティングの有無)などがある。目標は、化学的および物理的な差異を有する化合物のすべてを区別することができるかどうかを試験するである。前処理としては、1次微分とSNVが適用された。サンプルスペクトルの半分をトレーニングセット、残り半分をテストセットとして使用した。モデルの全てを、これらの253化合物の前処理されたスペクトルに適用した。スペクトラムの半分をトレーニングセットとして使用し、残りの半分をテストセットとして使用した。SIMCA, PLS-DA, LDA, QDA, SVM(非線形、線形、階層線形)7つのモデルを使用して比較を行った。SVM非線形モデルは良い結果を得られなかったが、SVM線形モデルは96.57%の予測成功率、階層SVM線形モデルでは97.92%の予測成功率を出し、他のモデルより良い結果となった。
                                       以上