2015年4月1日水曜日

<文献検索から>(14)近赤外域の極性/無極性溶媒中のメタノール分子の水素結合についての研究:濃度依存モル吸光係数からのアプローチ


著者:Yuko Mikami, Akifumi Ikehata, Chihiro Hashimoto, Yukihiro Ozaki
出典:Applied Spectroscopy Vol.68, No.10, P1181-189

【抄録】
 学問的、又実用の見地からも水素結合を形成する分子からなる液体の微細構造を明らかにすることは非常に重要である。しかし単純なアルコール分子のようなものでも、液体状態の性質については未だ論争がある。アルコール分子は集合体で水素結合によって鎖状、環状のオリゴマー、クラスターを形成する。これらの集合体は加熱だけではなく溶媒による希釈でも解離する。特にアルコール分子間で形成された水素結合は無極性溶媒を加えることにより徐々に解離する。それゆえCCl4,CHCL3のような無極性溶媒はしばしばアルコール分子を単離するための溶剤として使用される。無極性溶媒におけるアルコールに関する多くの報告がなされているが、極性溶媒中のアルコールのNIRスペクトルについての系統的な研究はない。
 この研究の目的は無極性/極性溶媒中のNIRスペクトルから異なった濃度でのメタノール分子の水素状態の依存性を解析することである。NIRスペクトルにみられる水素結合種の吸収バンドを明らかにするためにメタノールは重水素置換の極性溶媒で希釈された。上記解析をするために濃度によって値が異なる拡張モル吸光係数の使用を提案(通常のモル吸光係数は濃度に依存しない。)し、少しずつ濃度を変化させたスペクトルから各々の濃度スペクトルの差を求め濃度差で割って拡張モル吸光係数スペクトルを求めた。メタノールの純粋な濃度のプロファイルと異なった水素結合種を表すスペクトルに分解するためにMCR-ALSMultivariate Curve Resolution Alternative least square)を使用した。MCR-LSは古典的な一変量のカーブフィッティングの持つ不確定性を解消することが出来る
 水素結合に関する極性/無極性の溶媒の効果は塩素系化合物と重水素置換極性溶媒のようなNIRに活性のない溶媒を使うことによってはっきりと観測された。提案した拡張モル吸光係数は純粋な物質のモル吸光係数と直接比較できるので、理想的な混合物からのスペクトルの偏差が簡単に推定できた。7116cm-1の鋭いピークは無極性溶媒中の遊離したメタノールのフリーO-H基に帰属された。溶媒の大部分を占める多量体の結合O-H振動とメタノールのホモ多量体の結合O-H振動の吸収ピークはそれぞれ6350,6340cm-1に帰属された。さらにMCR-ALSによって異なる種を表す要素に拡張モル吸光スペクトルを分離できた。濃度依存のモル吸光係数を基礎にした方法である拡張モル吸光法は、異なる水素結合状態を推定するために非常に重要である。この方法は単純な混合液に適用出来るのみならず複雑な相平衡又は工業物質の化学反応の研究にも適用可能である。