2014年10月4日土曜日

<文献探索から>(11)FT-NIRイメージングを使用した重水素水の異なる温度での重水/軽水交換の分光学的考察


(題名:Variable-Temperature Fourier Transform Near-Infrared Imaging Spectroscopy of the Deuterium/Hydrogen Exchange in Liquid D2O)
著者:M. Unger, Y. Ozaki, H. W. Siesler
出典:Applied Spectroscopy, Vol.68,No.5, 2014

【予備知識】ウィキペヂアから引用
1)重水素とは
  軽水素(1H)の原子核が陽子1つなのに対して、重水素(D)の原子核は陽子1つと中性子1つから構成される。通常の場合、地球上の水素全体の中で、軽水素と重水素の存在割合は、軽水素が99.985%、重水素が0.015%である。
2)製法
  水を電気分解すると 1H2 の方が発生しやすいので重水が濃縮され、この方法で100 %重水を製造することができる。なお一般に植物は軽水を吸収しやすい性質があるため、種類によっては7割近くまで重水を濃縮することが可能である。その他にも、重水の方が普通の水よりも1℃沸点が高い事を利用した分別蒸留法や重水素をHDの形で含んだ水素ガスを水にとおすと重水素が水の分子に置換することを利用した交換反応法などがある。
3)応用
  核融合燃料としての利用、原子核反応での中性子の減速剤、化学や生物学では同位体効果の研究に使用。NMR溶媒として重水素原子で置換された溶媒が用いられる。製薬業界では、重水素効果のために反応性が低下し、代謝分解されるまでの時間が長くなるため、既存の薬の水素原子を重水素原子に置換する研究がおこなわれている。


【抄録】
  軽水/重水(H/D)同位体の交換は有機化学、タンパク、ポリマー研究における構造決定のための重要な技術である。この研究では、大気中の水蒸気にふれた重水素のD/H交換の温度変化による影響が調査された。
室温において50%(H2O)50%D2O)サンプルの中赤外スペクトルの吸収バンドは、1645, 1457, 1210cm-1に観測され、その強度はおおよそ1:2:1である。これらのバンドは、H2O,HDO,D2Oの変角振動に帰属され、下式にしめされる化学式で平衡状態にある。
              H2O(25%)+D2O(25%)⇔2HDO(50%)
近赤外イメージング装置はD2O,HDO,H2Oのオーバートーンと結合音バンドの吸収が弱く適当な厚さでスペクトルの透過測定が可能であり、中赤外に比べてこのようなアプリケーションには優れている。さらに時間変化温度変化による結果から、この同位体交換反応の活性化エネルギー導出と動的データを得ることが出来る。
  D2O粒……約φ7mm, 99.9%DをCaF2窓でサンドウィッチしてナフィオンフィルムで250μmに隙間を固定、D2O粒の周囲から水蒸気にさらし25℃~50℃に温度変化できるようにした。25℃でD2Oスペクトルの時間変化を測定したところ、40分以後にH2Oの吸収ピークが見られ140分以後ではD2O,HDO,H2Oの吸収が出てきた。NIRイメージング装置を用いて50μm×50μmのサンプルの温度を25℃、35℃、50℃と変化させて時間変化を調べたところ周辺から徐々にD/H交換が行われ、温度が高い方が交換が早いことが確認できた。同位体置換反応の方程式を立て温度変化のデータと比較し、実験とよく合っていることが分かった。