2014年11月6日木曜日

<スペクトルあれこれ>(8)スペクトルの標準物質

スペクトルを測定する際に、分光器が健全な状態にあるか判断するために標準のサンプルを使用してチェック(校正)できると都合が良い。赤外分光、近赤外分光、ラマン分光では、それぞれ校正用の標準物質と校正に都合の良い波数が決められている。
 この標準物質と波長については、JIS, NIST (National Institute of Standards and Technology), ASTM (ASTM International,旧名:American Society for Testing and Materials)等に記載されている。NISTに準拠する標準サンプルとその証明書は幾つかの会社から販売され、資料も豊富なのでここでは、NISTの規格を中心に説明する。表8AR-1に各規格のNoと代表的な標準物質を示す。
                               


それぞれの規格では、標準サンプルとそのスペクトルピークの波数が決められている。赤外域のポリスチレンサンプルのピークは子細に検討(例:NIST SRM1921)され、そのピーク位置は理科年表にも掲載されている。ポリスチレンサンプルは、代表的な赤外域の標準サンプル(近赤外、ラマンでは正式な標準サンプルと認められていない)だが、しばしば近赤外あるいはラマンの内部機器標準として使用され、代表的なピーク位置(波数)が論文等で紹介されている。赤外と近赤外域で高分解能分光器の標準サンプルとして水蒸気がしばしば用いられる。
 近赤外域では、反射測定が良く使用されることもあり、NISTでは希土類酸化物を使用した標準サンプルのピークが透過(SRM2035)と反射(SRM2036)に記載されている。近赤外域の水蒸気スペクトルでは7300cm-1付近が、高分解能FT-NIRの標準ピークとして使用されているようだ。
 ラマン分光用のNISTの標準物質は、ブロードなピークを持ち多項近似式の係数が定められている。NISTの標準では励起波長により標準物質が異なり785nm励起ではCr2O3がドープされたガラスが使用されているが、一般的な液体サンプルとしてはシクロヘキサンが使用されている。以下に標準物質のスペクトルと代表的なピーク波数を示す。