2013年6月29日土曜日

<文献探索から> (2)  線形分光法と複素光学パラメーター

(題名:線形分光法と複素光学パラメーター 出典: ぶんせき2013 6 p322-330

抄録:
     分光分析をよく理解するためには電磁気学的な考察が欠かせない。分光分析の基礎式として知られているランベルトベールの法則(L-B則)は光と境界面の関係を無視した理想的な式である。このようなことは教科書では全く書かれていない。電磁気学からの解析(マックスウエル方程式)では、非金属の屈折率は誘電率のルートになる。さらに解析を進めるとマックスウエル(Maxwell)方程式からL-B則が導きだせる。Maxwell方程式からL-B則を導き出すことにより、L-B則はセルも空気もない溶液試料のみの世界を光が直進することを想定して得られた結論であることが明らかになる。バルクのスペクトルと界面の影響を受けやすい薄膜のスペクトルを比較する場合は注意を要する。ATR (Attenuated Total Reflection) を使用したスペクトルは界面の影響を受けやすくバルクのスペクトルと異なる。この問題を正確に理解するためには、屈折率(誘電率も)を複素数で考える必要がある。
     光と物質の相互作用は光の電場が引き起こす誘電体の分極と考えてよい。電場によって分極が引き起こす現象は、パルス状の電場を印加した時に現れる分極の現象とし、線形システムの畳み込み積分で解析を行った。複素誘電率の解析から、電場と磁場の位相ずれがない振動であれば光の吸収は起こらない、すなわち光のエネルギーが分子振動のエネルギーに一致すれば吸収が起こるわけではなく分極が位相ずれを起こす時が吸収を起こす時であることが分かる。複素誘電率検討の際に導入されたクラマース・クローニッヒ(KK)の関係式を使えば、垂直入射の正反射スペクトルから複素屈折率を得ることができる。 電磁気学に基づくスペクトル解析を行うと高い精度で光学定数が得られ、詳しい化学情報が読み出せる。

読後感:
      化学(吸光分光法)と物理(電磁気学)の橋渡しをするような解説で電磁気学の基本式(Maxwellの方程式)と分光学の基礎式(L-B則)の関係を明らかにしている。物理学を専攻する学生はMaxwellの方程式から屈折率(誘電率)を導くことを習うが、ランベルトベールとの関係までは習わない(40年前の学生だからかもしれないが)。化学専攻で吸光分光法を勉強する学生は、L-B則を基礎にして勉強するが、L-B則の背後にある電磁気学的な理論には気がつかない。筆者の京大長谷川教授は、この化学的、物理的観点のギャップに焦点を当てて、電磁気学的観点からスペクトル解析を行うと今まで以上に豊富な情報が得られることを指摘している。数式をすべて理解できているわけではないが、色々なSuggestionを含む解説と思う。


抄録で使用した専門用語について以下に説明する。 

ランベルトベールの法則(L-B則):
試料に入射する光強度 ‥‥ Ii 、 試料を透過して出てきた光強度 ‥‥ Io、試料の濃度 ‥‥ c  、試料の厚さ ‥‥ l 、試料特有の吸光系数 ‥‥ ε    とすると下記関係がある。
         log(Io/Ii)=-ε×c×l
上記式をランベルトベールの法則という。Io/Iiは透過率を表す。

ATR (Attenuated Total Reflection): 全反射吸収測定法.。試料を屈折率の大きい全反射素子に密着させ、試料と素子間で全反射が起きるように設定する。 全反射が生じるとき、界面で光は試料側に少しだけもぐりこんで反射されてくる。試料に吸収のある領域では、吸収の強さに応じて反射光のエネルギーが減少する。この反射光を測定することによりスペクトルを得る。試料にもぐりこむ深さは、23波長程度(素子と試料の屈折率差で異なる)なので、試料薄膜のスペクトルが得られる。
Maxwellの方程式:   Maxwellによって示された電場、磁束密度、磁場、電束密度を電荷密度、電流密度と関連付ける4つの式。詳しくは電磁気の教科書を参照ください。この解説では、対象物を非金属(誘電体)に限っているので、磁気的な性質をあらわす透磁率が無視されている点に注意。一般的には屈折率は誘電率と透磁率の関数。
複素屈折率、光学定数、複素誘電率: 解説中にもあるように、物質が透明でない場合屈折率は、複素屈折率(n+ik)であらわされる。iは虚数を示す。完全な透明体ではk=0。このn, kを物質の光学定数とよぶ。屈折率と誘電率は密接な関係があり、誘電率も複素数であらわされる。3種の言葉を説明なしで使い分けている。

クラマース・クローニッヒ(KK)の関係式:   分光正反射率から光学定数を求める式。昔から知られている式だが、この解説では誘電体の光に対する応答関数から導入している。波長範囲が-∞から∞までの反射率データを使用するので、実測の反射率を使用して計算する場合に仮定が必要になる。この解説ではその点については触れていない。

                                                      

 



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